高血圧症の受診勧奨判定値についての正しいご理解を
最近、高血圧症で治療中の複数の患者さんから、「高血圧症の診断基準値が160/100mmHgになったと聞きました。お薬は減らせないでしょうか?」という相談を受けました。患者さんには、高血圧症の診断基準値に変更がないことを説明し、納得してもらったうえで治療を継続しています。
なぜ、高血圧症の診断基準についてこのような誤解が広まったのでしょうか?
調べてみると、日本高血圧学会もこの事態を把握しており、2024年5月に「特定健診における受診勧奨判定値についての正しいご理解を」と題し、声明を出しています。声明の中で、高血圧症の診断基準に誤解が生じた経緯について、また、正しい高血圧の理解について説明しています。以下に一部抜粋改変して記載しますので、興味がある方は読んでみてください。
令和6年4月より、厚生労働省による「標準的な健診・保険指導プログラム」も一部改訂されました(第4期へ移行)。その際に、特定健診における血圧の受診勧奨判定値について、一部で基準が変わったという誤解が広まっています。
厚生労働省による「標準的な健診・保健指導プログラム」と日本高血圧学会による高血圧治療ガイドラインの受診勧奨判定値と対応は下記のとおりで、従来と変更はありません。
(1) 収縮期血圧≧160mmHg又は拡張期血圧≧100mmHg
→ すぐに医療機関の受診を
(2) 140mmHg≦収縮期血圧<160mmHg又は90mmHg≦拡張期血圧<100mmHg
→ 生活習慣を改善する努力をした上で、数値が改善しないなら医療機関の受診を
今回の誤解は、一部の報道機関などで上記(1)のみが強調されたことが原因と考えられます。
一方で、上記(2)にあてはまる方への説明として「健診結果とその他必要な情報の提供(フィードバック文例集)」)には、次のように記載されています。 「今回、あなたの血圧はⅠ度高血圧になっていました。この血圧レベルの人は、望ましい血圧レベル(120/80mmHg未満)の人と比べて、約3倍、脳卒中や心臓病にかかりやすいことが分かっています。正確な血圧の診断の上で、治療が必要となる血圧レベルです。血圧を下げるためには、減量、適度な運動、お酒を減らす、減塩、野菜を多くして果物も適度に食べるなど、生活習慣の改善が必要です。(中略)これらを実行した上で、おおむね1か月後にかかりつけの医療機関で再検査を受けてください」とあります。
つまり(2)にあてはまる方は、I度高血圧として改善が見られなければ、医療機関の受診が必要となります。もちろん、健診では血圧が上がってしまう方、また、ちょっとした自己管理で血圧が下がる方もいます。そのため、高血圧治療が必要かについては、(理想的には)少なくともの1か月程度の自宅血圧を測定したうえで、判断することになります。また、たとえ高血圧症と診断されても、最終的に治療するかどうかは、ご自身が、医師と相談したうえで決めることが大切です。
なお、現在の高血圧症の診断基準は、長期間にわたる多数の臨床試験の結果に基づいており、今後、突然、診断基準が大きく変更になることはほとんどありません。
日本人にとっての高血圧症は、喫煙とともに脳心血管病の最大の危険因子です。高血圧症治療の目標は、血圧を下げることにより将来的な病気を予防することです。血圧が120/80mmHgを超えると、血圧値に比例して脳心血管病や慢性腎臓病の危険性が高まります。食塩摂取量の多いわが国では、疾患別による高血圧罹患人口は最大で、高齢化や過食などの影響により増加傾向です。ツノクリも、将来の脳梗塞や心筋梗塞などの予防のため、高血圧症の皆さんの治療を応援します。