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急性冠症候群

はじめに

急性冠症候群は、心臓を栄養する血管(冠動脈)にできた粥腫(プラーク→Q2)が破れたり、はがれたりすることによって、冠動脈の中に血栓が作られ、つまったり(つまりかかったり)する病気です。急性冠症候群の中でも、冠動脈がつまった状態を急性心筋梗塞(→Q3)、冠動脈がつまりかかっている状態を不安定狭心症(→Q5)と呼びます。
これらの病気では、発作による突然死を予防したり、後遺症をできるだけ小さくしたりするために、つまった(つまりかかった)冠動脈を、できるだけ早く再開通(再灌流)することが大切になります。一般的な症状として、突然、強く胸が締め付けられるような症状が出現して気分が悪くなり(嘔吐や悪心)、冷や汗が出てきます。しばらく症状が治まらないため、生命の危機を感じて救急車を呼ぶことになります。到着した救急隊員に、急性冠症候群が疑われ、地域の救急病院に運ばれます。病院到着後は、つまった(つまりかかった)冠動脈をできるだけ早く、心臓カテーテル治療(→Q9)によって再灌流させることに全力が注がれます。
もちろん、ツノクリでは急性冠症候群の診断ができても、このような特別な治療をすることはできません。もし皆さんが、経験したことのないほど強い胸の圧迫感や胸の痛みなどに襲われ、しばらく治まらないようであれば、一刻も早く救急車を呼ぶことをお勧めします。急性冠症候群の診断と治療は、一分一秒を争うと言っても過言ではありません。まずは、自分の命を守ることが大切です。皆さんの命は、自分だけでなく、周りの人や愛する人にとっても大切な命なのです。

Q1.急性冠症候群とはどんな病気ですか?

心臓を栄養する血管(冠動脈)が、つまってしまう(つまりかかってしまう)病気です。
冠動脈にできた動脈硬化(粥腫/プラーク→Q2)が破れたり、はがれたりすることによって、冠動脈の中に血栓(血の塊)ができ、冠動脈の血液の流れを障害します。冠動脈がつまって血液が流れなくなった場合には急性心筋梗塞(→Q3)と呼ばれ、冠動脈がつまりかかって血液がとても流れにくくなった場合には不安定狭心症(→Q5)と呼ばれます。

Q2.粥腫/プラークとは何ですか?

動脈硬化の中でも、軟らかくて破れやすいものを指します。
動脈硬化には、できて間もない軟らかい粥腫から長い間かけて骨のように固くなった石灰化まで、様々な段階のものがあります。粥腫のイメージは生卵の黄身です。黄身の表面は薄い皮膜で覆われており、ちょっとした衝撃でも破れてしまいます。一旦、薄い皮膜が破れてしまうと黄身があふれ出てきます。もし、血管の中に生卵の黄身のようなものがあり、その皮膜が破れてしまえば、血液の流れが悪くなり、血管がつまってしまうのも理解できると思います。

Q3.急性心筋梗塞はどんな病気ですか?

冠動脈が突然つまり、心臓の筋肉(心筋)に壊死が始まる病気です。
急性心筋梗塞は、冠動脈が突然つまることにより、心臓の筋肉(心筋)に壊死が起こります。突然、血液が途絶した心臓が驚いて、不整脈をきたして、突然死する場合もあります。実際、急性心筋梗塞は、日本人での突然死の原因の1位(4割)と考えられています。幸い、突然死をまぬがれ、大きな病院にたどり着いても、そのうちの5%の患者さんは、一度も退院することができずに亡くなってしまいます。
冠動脈がつまると血液は途絶し、時間と共に心筋の壊死が増えていきます。そのため、一刻も早く心臓カテーテル検査と治療(→Q8および9)を受ける必要があります。近年は、発作(救急車に乗って)から治療開始までの時間が90分以内であれば、生存率が高いとされています。そして、無事に退院できたとしても、一旦、心筋梗塞になってしまうと一生涯、心臓に後遺症を残すことになります。
経験したことのない程の胸部の圧迫感や痛みが出現し、数分たっても改善しない場合は、迷わず救急車を呼びましょう。周りにいる人は、救急車到着まで患者さんを見守り、声を掛けても応答がなくなってしまったら、迷わず心臓マッサージを開始することが大切です。それによって、その人の命だけでなく、一時的に心臓が止まることによって生じる脳死を防ぐことができるかもしれません。

Q4.急性心筋梗塞に特徴的な症状はありますか?

はい、20分以上続く、胸部の圧迫感や締めつけられる症状です。
心臓は左胸にあることから、急性心筋梗塞では左の胸の痛み(胸痛)があると考える人が多いようです。しかし、多くの心筋梗塞の患者さんは「胸の重苦しさ」、「胸の圧迫感」,「胸の絞めつけられる感じ」や「胸の不快感」を訴えます。特に、胸の症状だけでなく、意識を失ったり、吐いたり、あくびや冷や汗が出たり、呼吸が苦しくなったりした場合には、生命の危機が迫っている可能性があり要注意です。一方で、「刺されるような痛み」、「チクチクする痛み」や「痛い場所を触れて変化する痛み」の場合、そして、その症状が20秒以内に治まる時は急性心筋梗塞ではないことが多いです。もちろん、症状が治まるのを20分待つ必要はありませんので、数分で治まらなければ救急車を呼んでください。

Q5.不安定狭心症はどんな病気ですか?

冠動脈がつまりかかって、急性心筋梗塞(→Q3)になる可能性のある状態です。
不安定狭心症は、冠動脈がつまりかかって、いつ急性心筋梗塞になってもおかしくない状態です。不安定狭心症は、患者さんの症状によって3つの型に分類されますが、Class Iの内容が典型的な症状です。

Class I:新規発症の重症または増悪型狭心症

  •  最近2か月以内に発症した狭心症。
  •  1日に3回以上発作が頻発するか、軽労作にても発作が起きる増悪型労作狭心症。安静狭心症は認めない。

Class II:亜急性安静狭心症

  •   最近1か月以内に1回以上の安静狭心症があるが、48時間以内に発作を認めない。

Class III:急性安静狭心症

  •   48 時間以内に1 回以上の安静時発作を認める。

一旦、急性心筋梗塞になってしまえば一生涯、心臓に後遺症を残すことになります。不整脈による突然死などの可能性もあります。そのため、病院到着後は急性心筋梗塞に準じた扱いとなり、患者さんは集中治療室に入院して、緊急の心臓カテーテル検査を受けることになります。
不安定狭心症は命に関わる重大な病気ですが、その診断(判断)は循環器専門医でも難しいことが多いです。

Q6.急性冠症候群はどのように診断しますか?

心電図検査、血液検査、冠動脈CT検査、心臓カテーテル検査(→Q8)などによって診断します。
急性冠症候群(急性心筋梗塞や不安定狭心症)を最も簡便に診断する方法は、心電図検査ですが、特徴的な所見がみられるのは全体の半数程度です。そのため、血液検査によって、心臓の筋肉(心筋)が壊死した際に血液中に漏れ出るわずかな心筋を構成するタンパク(心筋トロポニン→Q7)を測定します。血液中のわずかな心筋タンパクの上昇が、急性冠症候群を見つける大切なきっかけになります。
もちろん、患者さんの症状と心電図変化から急性冠症候群がかなり疑わしければ、血液検査の結果を待たずに心臓カテーテル検査(→Q8)になる場合もあります。

Q7.心筋トロポニンとは何ですか?

トロポニンは全身の骨格筋と心臓の筋肉(心筋)に存在する筋肉細胞のタンパク成分です。なかでもトロポニンIとトロポニンTは、心臓にのみ存在するトロポニンのため心筋トロポニンと呼ばれます。
血液検査で心筋トロポニンが上昇している場合には、少なくとも心筋に何らかの障害を受けていることを示しています。そのため、患者さんの症状と心電図変化で急性冠症候群が疑われた際に、血液中の心筋トロポニンが上昇していた場合には、急性冠症候群の可能性がとても高くなります。

Q8.心臓カテーテル検査とはどのような検査ですか?

心臓を栄養する血管(冠動脈)に造影剤を注入して、血管の狭窄や閉塞を動画で撮影する検査です。治療の必要があれば、すぐに心臓カテーテル治療(→Q9)に移ることもできます。
そのため、急性冠症候群や慢性冠動脈疾患(狭心症など)の診断ならびに治療方針を決めるためとても重要な検査です。特に、急性冠症候群では、治療までに一刻を争いますので、すぐに心臓カテーテル治療に移れる心臓カテーテル検査は理想的とも言えます。心臓カテーテル検査の一般的な手順は次の通りです。

  1. 手首、肘、または足の付け根にある動脈を針で刺し、ガイドワイヤーと呼ばれる細い針金を動脈の走行に沿って挿入します。
  2. ガイドワイヤーに沿って直径約1.5~2.5mmのやわらかいプラスチック製のカテーテルシースと呼ばれる細い管を血管内に挿入します。カテーテルシースには逆流防止弁がついており、出血を抑えながら、安全かつ速やかに血管内に必要な道具を出し入れできるようになります。
  3. その後、その血管内に通じたカテーテルシースからカテーテルを血管内に挿入し、冠動脈の撮影を行います。

検査中に痛みを伴うことはほとんどありませんが、カテーテルシースを挿入する際、皮膚に局所麻酔を行い血管に針を刺すときには、一時的に痛みを感じることがあります。治療後は穿刺した部位に応じた方法で圧迫止血を行いますが、足の付け根の動脈を穿刺した場合には、検査後に一定時間の安静が必要になります。

Q9.心臓カテーテル治療はどのような治療ですか?

つまった(つまりかかった)心臓を栄養する血管(冠動脈)に、再び元通りに血液を流すこと(再灌流)を目的とした血管内治療です。
心臓カテーテル治療は、心臓カテーテル検査(→Q8)の延長によって行われ、血管内に挿入したカテーテルシースからカテーテルを挿入して冠動脈の治療を行う方法です。一般的には、つまった(つまりかかった)冠動脈に、バルーンと呼ばれる風船を持ち込んで膨らませたり、ステントと呼ばれる金属のトンネル(→Q10)を持ち込んで血管の中に置いてきたりする治療法です。急性心筋梗塞では、突然、冠動脈がつまることによって、心筋の壊死が始まり、その範囲は時と共に拡大してきます。壊死してしまった心臓の筋肉はほとんど生まれ変わることなく、壊死した心筋の程度によって、全身に血液を送る心臓のポンプ機能に少なからずの後遺症を残します。そのため、一刻も早い冠動脈の再灌流が必要になります。
バルーン治療は、冠動脈にしぼんだ風船を持ち込み、つまった(つまりかかった)部位に圧力をかけながら広げる方法です。それによって、粥腫(→Q2)が血管壁に押しつぶされ、血液の流れが改善します。一方で、ステント治療では、しぼんだ風船の上に金属のトンネルが装着されており、つまった(つまりかかった)部位に圧力をかけながら広げることによって、血液の流れを改善させると同時に血管内にトンネルを置いてきます。現在では、ほとんど全ての心臓カテーテル治療でステントを留置してきます。尚、さまざまな理由から外科的手術(→Q13)になる場合もあります。

Q10.ステントとは何ですか?

つまった(つまりかかった)血管が、再びつまる(つまりかかる)ことを防ぐための金属製の筒状の網(トンネル)です。
ステントには、大きく、ベアメタルステント(BMS)と薬剤溶出性ステント(DES)の2種類があります。金属製の筒状の網であるベアメタルステントに、特殊な薬剤を塗って、再狭窄の予防効果を高めたものが薬剤溶出性ステントです。現在、用いられるステントの95%以上が薬剤溶出性ステントです。いずれのステントを留置しても、血管がつまりにくくなるお薬(抗血小板薬)を飲む必要があります。

Q11.陳旧性心筋梗塞とは何ですか?

急性心筋梗塞(→Q3)から1か月以上経過すると陳旧性心筋梗塞と呼ばれます。
急性心筋梗塞は命を危険にさらす重大な病気ですから、発作後の数日間(急性期)の治療が無事に終了しても、心臓が元の状態に戻れるわけではありません。心筋梗塞により壊死してしまった心臓の筋肉(心筋)はほとんど生まれ変わることなく、壊死した心筋の程度によって、心臓が全身に血液を送るポンプ機能に少なからずの後遺症を残します。そのため、心臓のポンプ機能の低下した原因として、陳旧性心筋梗塞と呼ばれることになります。
心臓のポンプ機能の低下により、心臓は今まで通りの量の血液を全身に送り出すことができなくなります。そのため、全身の臓器では血液が不足しやすい状態になり、臓器の酸素不足を引き起こしやすくなります。心臓のポンプ失調による臓器の酸素不足は心不全(→「心不全」参照)と呼ばれ、患者さんは、疲れやすい(全身倦怠感)、息切れがする(労作時呼吸困難)、横になると苦しい(起坐呼吸)、足がむくむ(下腿浮腫)などの症状をきたします。これらの症状は、徐々に悪化しながら一生涯にわたって続き、患者さんの生命を脅かすだけでなく、生活の満足度や充実感を低下させることになります。そのため、急性心筋梗塞ではできるだけ早い心臓カテーテル治療(→Q8)が必要であり、陳旧性心筋梗塞では残った心臓のポンプ機能をできるだけ維持する療養法(→Q12)が必要になってきます。

Q12. 自分が急性冠症候群になった時に、気を付けることはありますか?

はい、病気を知り、再発と悪化を予防するための生活習慣や治療を維持することです。
カテーテル治療などの技術的な進歩により、急性心筋梗塞の患者さんは約7日で、不安定狭心症の患者さんは約3日で退院してしまいます。入院期間が短くなることは医療費から見ても患者さんから見ても望ましいことです。しかし、入院期間が短くなり、急性冠症候群を経験した患者さんの多くが病気のことを良く知らずに退院してしまいます。
ツノクリでは、急性冠症候群を経験した患者さんにとって、発症後数日間を乗り越えた後こそが重要だと思っています。急性冠症候群発症後の数日間は、医療従事者が治療に専念してくれるため、自分で努力してできることはほとんどありません。一方、退院前や退院後は、患者さんの未来を左右する大切な時期で、患者さん自身の努力が重要になってきます。特に覚えておいて欲しいことは、次の2つです。

  • 急性冠症候群の原因は動脈硬化であり、1年以内に3割の患者さんが冠動脈疾患、脳梗塞、心不全などで再入院すること
  • 急性心筋梗塞では、心筋壊死による心臓のポンプ機能障害が一生涯にわたって残ること

そして、できるだけ再入院を減らし、できるだけ心臓のポンプ機能を維持するために大切なことは、次の3つです。ちなみに禁煙は当たり前すぎて載せていません。

  • 運動療法(週に3日から4日、1回40分以上の有酸素運動習慣)を維持すること
  • 食事療法(適切なカロリーと塩分制限)を維持すること
  • 薬物療法(医師に指示されたお薬を欠かさず内服)を維持すること(→Q14)

Q13.冠動脈バイパス治療はどのような治療ですか?

つまった(つまりかかった)心臓を栄養する血管(冠動脈)の先に、別の血管をつないで、心臓の筋肉(心筋)に血液を送り込む外科的手術です。
冠動脈バイパス術は、全身麻酔をしたうえで開胸して、つまった(つまりかかった)冠動脈の先に患者さんの血管(胸や胃の動脈や足の静脈)を用いて橋渡しをすることにより、新しい血液の流れを作り出します。心臓カテーテル治療と比べ、一度に複数の冠動脈を治療できることや十数年間にわたり治療効果が期待できることが利点ですが、全身麻酔が必要であること、心臓の外科的手術のため体への負担が大きくなることが短所です。特に、高齢者では、外科的治療が成功しても、その後の合併症や長期臥床(横になっている期間が長いこと)により元気がなくなってしまう場合もあります。患者さんの一生を左右する大切な治療ですから、循環器専門医の医師としっかりと相談して治療方針を決めましょう。

Q14.急性冠症候群を治療後に飲むお薬は一生飲む必要がありますか?

はい、一生飲む必要があります。
一般的に、急性心筋梗塞では、①抗血小板薬(しばらくは2種類) ②スタチンと呼ばれる脂質低下薬 ③ACE阻害薬もしくはARBと呼ばれる降圧薬 ④β遮断薬と呼ばれる降圧薬 ⑤ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬と呼ばれる利尿薬 などは少なくとも生涯にわたって内服する必要があります。一方で、不安定狭心症では、前出の①および②は少なくとも生涯にわたって内服する必要があります。これらのお薬は、急性冠症候群の患者さんが、元気で長生きする期間を延長してくれることが確かだとされています。医師の指示の下で、適切に内服を継続しましょう。

第一版 2021年7月15日

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