高尿酸血症・痛風について
はじめに
痛風の名前は「風が吹いただけでも痛くなる」ことに由来すると言われています。
足を踏み込んだ途端に、足の親指の付け根の関節に激痛が襲い、訳がわからずクリニックに(実際は、痛みで片足を引きずっていますが…)駆け込んできます。クリニックで処方されたお薬(痛み止め)を飲んで、一週間もすれば何事もなかったように治ってしまいます。そして、治療しないまま数週間から数か月が経った頃に、再び、足の親指の付け根の関節に激痛が襲います。医師は、高尿酸血症と痛風発作の関係について、そして治療の大切さについて説明しているはずですが、多くの患者さんは受診時の激痛のため説明が記憶に残っていません。
痛風発作を起こした患者さんの多くは、血液中の尿酸値が高いこと(高尿酸血症)が知られています。体内の尿酸は、食事で摂取する動植物の細胞、また新陳代謝する自らの細胞にある、遺伝子の断片(プリン体)が、肝臓で代謝分解されて作られます。そのため、新陳代謝が活発な食欲のある世代(20-49歳)を中心に、高尿酸血症が見られ、そして痛風発作が起こります。
ツノクリでは、高尿酸血症の患者さんには、まず、体内の尿酸を下げるための生活習慣(特に食生活)改善をお勧めし、それでも血液検査での尿酸値が下がらないようであれば、お薬を飲んでもらうこともあります。特に、一度でも痛風発作を起こしたことのある患者さんは、再び起こすことが多いことが知られているため、ツノクリでは、一度でも痛風発作を起こした患者さんには、二度と発作が起きないようにお薬を飲むことをお勧めしています。痛風発作は、一旦起きてしまうと、痛みのため、一週間程度、通常の生活を送ることが難しくなります。ツノクリでは、皆さんがいつも通りの毎日を送るために、痛風発作は起きないことが大切だと思っています。また、お薬を飲むことになった場合は、お薬の中断による痛風発作を防ぐため、毎日、欠かさずにお薬を飲むことも大切です。
目 次
Q1.高尿酸血症と診断されたら、すぐにお薬を飲む必要がありますか?
Q2.高尿酸血症の原因は何ですか?
Q3.痛風発作はなぜ起こるのですか?
Q4.痛風発作はどの関節で起こりやすいのですか?
Q5.痛風発作は治療が必要ですか?
Q6.痛風発作の間に尿酸を下げるお薬を飲み始めることができないのはなぜですか?
Q7.尿酸値をすぐに下げたいのですが、大丈夫でしょうか?
Q8.尿酸値を下げるには主にどんなお薬がありますか?
Q9.偽痛風は痛風と違うのですか?
Q10.痛風が起きるかどうかわかりますか?
Q11.お酒は痛風発作(高尿酸血症)の原因になりますか?
Q12.プリン体ゼロのお酒は、尿酸の上昇を抑えられますか?
Q13.ビールをビール以外のお酒に替えれば、尿酸上昇は抑えられますか?
Q14.プリン体の多い食事を控えれば、尿酸値は下がりますか?
Q15.太っている場合には、痩せると尿酸値は下がりますか?
Q16.体重を減らすための運動はなんでも構いませんか?
Q1.高尿酸血症と診断されたら、すぐにお薬を飲む必要がありますか?
いいえ、必ずしもお薬を飲む必要はありません。
高尿酸血症は、血液検査での尿酸値7.0mg/dL以上で診断されます。2021年7月現在、成人男性のおよそ5人に1人、30-39歳の男性のおよそ3人に1人が高尿酸血症とされています。もちろん、高尿酸血症と診断された場合には、将来の腎臓の機能低下を防ぎ、痛風発作を予防するため、尿酸値を下げるための生活(→Q12~16)を送ることが大切です。一方で、高尿酸血症だからと言って、必ずしもお薬を飲む必要はありません。
ツノクリでは、健康診断で高尿酸血症と診断されても、お薬を積極的に飲んでもらうことはありません。ただ、高尿酸血症は、肥満症と生活習慣病(高血圧症、糖尿病、脂質異常症)と強く関連しているため、生活習慣を見直すことが大切だと考えています。
Q2.高尿酸血症の原因は何ですか?
年齢、性別、食事、運動、肥満、お薬、腎臓での血液ろ過能力などが原因になります。
男性における年齢別の平均尿酸値は、20歳ごろから上昇して30-39歳で最も高くなり、徐々に低下してきます。一方、女性の平均尿酸値は、女性ホルモンの影響により、男性と比べて1.0 mg/dL程度低いことが知られていますが、閉経に伴い男性と同じ程度まで上昇します。肥満では、尿に排泄される尿酸を再吸収する働きが強くなると同時に、肝臓でのプリン体の合成が増え、代謝される尿酸も増加します。また、高血圧症や心臓病の治療薬である利尿剤やベータ遮断薬により尿酸値は増加します。そして、尿を作る腎臓の能力が低下すれば、尿酸を体外に排泄することが難しくなり、体内の尿酸は増加します。
生活習慣に関わる食事や運動については、あとで回答します(→Q12~16)。
Q3.痛風発作はなぜ起こるのですか?
血液中の尿酸が関節の中にあふれて炎症を起こします。
血液に溶けている尿酸の量が増えて一定量に達すると、溶けることができない尿酸が塊(結晶)になります。これは、水の中に塩を入れ続けると、どこかの時点で溶けなくなるのと同じ原理です。血液中の尿酸結晶は、特定の関節(→Q4)の袋の中(関節腔)にあふれ出てきます。尿酸結晶があふれた関節腔に、動きや圧力などの刺激が加わると尿酸結晶に炎症が起きて体の防衛機能が働き、さらに炎症を悪化させます。そのため、痛風発作を予防するには血液の尿酸を減らすことが大切です。一方で、尿酸値の急激な低下も痛風発作を起こすことがあり、注意が必要です(→Q6)。
Q4.痛風発作はどの関節で起こりやすいのですか?
典型的には足の親指の付け根の関節です。
痛風発作を起こす患者さんの9割は、足の親指の付け根の関節に起こします。尿酸が結晶化しやすいのは、(体の中央から離れた)冷たく、大きな力のかかりやすい関節です。この2つの条件を備えた関節が、足の親指の付け根の関節や足の関節です。
Q5.痛風発作は治療が必要ですか?
はい、治療が必要です。
痛風発作では、突然の激痛が足の親指の付け根を襲います。多くの患者さんが痛みに耐えられなくなり、また歩けなくなり、近所のクリニックを受診します。まずは、激しい痛みを抑えるために、できるだけ早く十分量の痛み止めを飲みます。1週間程度で痛みが落ち着き、(痛風発作中に尿酸値が大きく変動すると痛風発作が再発する可能性があるため)さらに2週間ほど経ってから尿酸を下げるお薬を始めます。自己中断して自宅に残っていた尿酸治療薬を焦って飲むと、再び激しい痛風発作が起きる可能性があります。注意しましょう。
ツノクリでは、他の病気やお薬の飲み合わせに問題が無ければ、まずは鎮痛剤のナイキサン(ナプロキセン)400~600mg(4~6錠)を内服してもらいます。その後、痛みが治まるまで、ナイキサン300~600mg/日を内服します。ナイキサンで痛風発作が十分治まらない場合には、別にコルヒチン1.0mgを内服し、1時間後に追加で0.5mgを内服します。痛みが治まるまでは、コルヒチン0.5mgを一日2回飲み続けてもらいます。一方、コルヒチンを指示された量(1.5mg/日より)多く服用すると、副作用(特に下痢や吐き気などの消化器症状)が高頻度で出現することが知らています。痛みが治まらないからと言って過剰に服用してはいけません。
また、無治療で経過した場合には、最初の3日間は激しい痛みが続き、多くは7日後でも痛みが持続するとされています。そのため、痛風発作が起きた場合には、日常生活を取り戻すために、できる限り早く鎮痛剤を内服することをお勧めします。
ツノクリでは、一度でも痛風発作を起こした患者さんには、二度と発作が起きないように血液中の尿酸値を下げるお薬を飲むことをお勧めしています。ただ、尿酸値を下げるお薬は、痛風発作が治まってから少なくとも2週間以上待ってから飲む必要(→Q6)があります。痛風発作を起こした患者さんは、通常、1週間程度で痛みが治まってしまうので、お薬を飲まない人も少なくありません。しかし、一度痛風発作を起こした患者さんは、再び発作が起こる可能性が高いことが知られています。しっかりと再発予防に努めましょう。
Q6.痛風発作の間に尿酸を下げるお薬を飲み始めることができないのはなぜですか?
お薬による尿酸値の低下が、痛風発作を悪化させる可能性があるからです。
血液中の尿酸値の急激な変化(増えても減っても)は、痛風発作を引き起こすことがあります。血液中の尿酸値が急に増加すれば、尿酸の結晶が関節内にあふれて、痛風発作を引き起こします。一方、血液中の尿酸値が急に低下しても、同様に痛風発作を引き起こすことがあります。この現象は、わずかですが、尿酸を下げるお薬を飲み始めた患者さんの中にいます。なぜ発作が起きてしまうのかはよく分かっていませんが、痛風発作中に新たに尿酸を下げるお薬を飲むと、痛風発作が悪化してしまう可能性があります。
ツノクリでも、痛風発作中に、尿酸を下げるお薬を新たに処方したり、すでに尿酸低下薬を飲んでいる場合にはお薬を変更したりしません。皆さんも、血液中の尿酸値を下げるお薬を、急に中止したりしないように心がけましょう。痛風の発作が起きるかもしれません。
Q7.尿酸値をすぐに下げたいのですが、大丈夫でしょうか?
いいえ、痛風発作を引き起こす可能性がありますので止めましょう。
理由ははっきりと分かっていませんが、血液中の尿酸値を急に低下させると、痛風発作が引き起こされることがあります。そのため、効果の強いお薬を初めて、わずかな時間で尿酸値を大きく下げることは、良いことではありません。効果の強くないお薬、もしくは効果の強いお薬を少量から開始して、血液中の尿酸値がゆっくりと下がるようにしましょう。
ツノクリでは、お薬を飲み始めてしばらくは、月に1回程度の血液検査をすることをお勧めしています。血液中の尿酸値が安定すれば、血液検査の間隔を延長しても良いと思います。
Q8.尿酸値を下げるには主にどんなお薬がありますか?
主に、体内で作られる尿酸を抑えるお薬(尿酸合成阻害薬)と、体外(尿中)に尿酸を出す働きを強めるお薬(尿酸排泄促進薬)があります。いずれのお薬も、尿酸の変動を小さくするために、効果の弱いお薬、もしくは少ない量から飲み始めることをお勧めします。
尿酸合成阻害薬には、ザイロリック(アロプリノール)やフェブリク(フェブキソスタット)があります。アロプリノールは、50年以上にわたり使われているため、良い点と悪い点が広く知られているのが特徴です。効果は穏やかで、副作用には皮膚症状(発赤など)があります。一方、フェブキソスタットは、効果が強く、腎臓機能の低下した患者さんにも使うことができるだけでなく、副作用も少ないことが知られています。ただし、新しいお薬のため、長期間にわたって内服した場合の副作用はまだ分かっていません。
尿酸排泄促進薬には、プロベネシドやユリノーム(ベンズブロマロン)があります。プロベネシドは、50年以上前から使われているお薬のため、アロプリノールと同じく、良い点と悪い点が広く知られています。効果は穏やかで副作用の少ないお薬です。一方、ベンズブロマロンは、効果が強く、腎臓機能の低下した患者さんにも使うことができます。ただし、尿中に排泄する尿酸が増え、腎臓に尿路結石ができることがあります。尿酸排泄促進薬を飲む際は、水分を多く摂取し、尿が酸性(尿路結石を作りやすくなります)になりすぎないよう定期的な尿検査によってpH>6.0(酸性が強くなりすぎていない状態)を維持することをお勧めします。尿の酸性が強い場合には、クエン酸により尿の酸性化を弱めることが望ましいとされています。
ツノクリでは、尿路結石ができるのを避けるために、尿酸合成阻害薬(アロプリノールやフェブキソスタット)を使う場合が多いです。一般的に、痛風や高尿酸血症の患者さんには、少量のアロプリノールから開始し、効果が弱いようであればフェブキソスタットへの変更を考えます。
Q9.偽痛風は痛風と違うのですか?
偽痛風と痛風は、症状は似ていますが結晶化する物質が違います。
偽痛風は、発作が痛風に似ているために名前が付けられました。痛風では関節内の尿酸が結晶化して炎症を起こしますが、偽痛風では尿酸以外の物質(ピロリン酸カルシウムが最多)が結晶化して炎症を起こします。痛風は足の親指の付け根の関節を襲いますが、偽痛風では全身の様々な関節で起きます。偽痛風は、やや女性に多く、発作は膝や手首の関節に多い印象があります。症状が強い場合には、痛風と異なり関節内にステロイドの注射をすることがあります。関節内の注射は、ツノクリではできませんので整形外科を受診してください。
Q10.痛風が起きるかどうかわかりますか?
はい、前兆(予兆)を感じることがあります。
痛風発作の前兆として、発作が起きる関節の違和感やムズムズ感などがみられることがあります。安静にして静かにすると感じやすいため、夜間に出現する場合が多いようです。もし、前兆を感じたら、コルヒチン0.5mg(1錠)を飲みましょう。欧米では、痛風の前兆があった際にコルヒチンを飲むと、痛風発作の頻度が4分の1程度になり、発作が起きてもひどくならないと報告されています。痛風発作のある患者さんは、是非、コルヒチンを手元に持っておいてください。一方、痛風の前兆がみられたからといって、尿酸を下げるお薬を飲み始めたりすると、痛風発作が起きやすくなってしまうので、飲まないように気を付けましょう。繰り返しになりますが、自分でお薬を調整しないように心がけましょう。
Q11.お酒は痛風発作(高尿酸血症)の原因になりますか?
はい、なります。
アルコールが分解される際に、体内でエネルギーが使われて尿酸が産生され、尿酸値は増加します。特に、大量飲酒した際には、体内のエネルギーが徹底的に利用され、乳酸(疲労物質)が作られます。乳酸は、本来排泄されるはずの尿酸の代わりに尿中に出ていくため、尿酸が過剰に体内に残り、尿酸値はさらに増加します。加えて、アルコール飲料に含まれるプリン体は、尿酸値を増加させます。特に、ビールは、酵母や麦芽が活発に代謝(細胞が壊れて新しくなる)しているため、壊れた遺伝子の破片(プリン体)が尿酸を生み出します。そのため、痛風および高尿酸血症の患者さんはアルコール飲料、なかでもビールは避けるように心がけましょう。
Q12.プリン体ゼロのお酒は、尿酸の上昇を抑えられますか?
はい、抑えられます。
(同量のアルコールを含む)通常の発泡酒とプリン体ゼロの発泡酒を飲んで、血液中の尿酸値を観察すると、プリン体ゼロの発泡酒では尿酸値の上昇が抑えられることが分かっています。痛風および高尿酸血症の患者さんは、プリン体ゼロのお酒に変更することをお勧めします。
Q13.ビールをビール以外のお酒に替えれば、尿酸上昇は抑えられますか?
はい、抑えられます。ただし、お酒の量を控えなければ尿酸値は上昇します。
尿酸値が上昇しないお酒の1日量の目安は、ビールなら350mL、ウイスキーなら60mL、焼酎なら90mL、ワインもしくは日本酒なら150mLとされています。これ以上の量のお酒を摂取すれば、血液中の尿酸値は上昇します。
Q14.プリン体の多い食事を控えれば、尿酸値は下がりますか?
はい、下がる患者さんがいます。
プリン体の多い食べ物として、肉類(特にレバー)、魚類、魚卵、白子などが知られています。これらを多くとっている患者さんであれば、控えることによって血液中の尿酸値を下げることができる可能性は十分あります。ただし、プリン体は、体内の新陳代謝によっても作られるため、必ずしも食事での摂取量が多いことが原因とは限りません。だからといっても、痛風および高尿酸血症の患者さんでは、できるだけプリン体の多い食品は控えることをお勧めします。
Q15.太っている場合には、痩せると尿酸値は下がりますか?
はい、下がります。
高尿酸血症と最も関係が深い合併症は肥満症です。肥満症を防ぐ食事や運動を心がけることにより、血液中の尿酸値も下がることが分かっています。まずは、自分の適正体重を知ることから始めましょう。日本人の適正体重は、最も病気にかかりにくいとされている体格指数(BMI)が22です。そのため、適正体重 = 身長(m)× 身長(m)× 22(体格指数)で求められます。
おおよそ、150cmなら50kg、160cmなら56kg、170cmなら64kg、180cmなら71kgです。詳しく知りたい場合には「健康な食事について」を参照してください。
Q16.体重を減らすための運動はなんでも構いませんか?
いいえ、有酸素運動をお勧めします。
有酸素運動とは、筋肉が酸素を利用しながらエネルギーを作り出している状態です。そのため、一般的に、有酸素運動中は強く息が切れることはありません。有酸素運動は、サイクリングや散歩(歩行)などの持久運動です。なかでも、安全な有酸素運動の目安は、隣の人と息を切らさずに話ながら、できるだけ速く、自転車をこいでいる、もしくは歩いている状態です。その運動を30~40分間行うと、通常、軽く汗をかいてきます。それが、理想的な有酸素運動です。もちろん、年齢や(怪我や痛みを含む)病気がないことが前提です。体調が悪い日や天候が悪い日は、無理をして運動を行う必要はありません。無理な運動は、体調を悪化させたり怪我をしたりすることがあります。
一方で、無酸素運動、なかでも足に力を入れる運動はお勧めしません。もちろん、ゴルフや短距離走などは、足の親指の付け根の関節に刺激を加え、炎症を起こす(悪化させる)可能性があります。筋肉トレーニングも、筋肉の新陳代謝(細胞が壊されて新しくなる)が活発になるので、血液中の尿酸値が上昇します。これらの運動は、特に痛風発作を起こして数か月間は、控えることをお勧めします。
第四版 2024年11月03日