メニュー

過敏性腸症候群について

はじめに

 過敏性腸症候群は、お腹の不快感または痛みが繰り返され、さらに排便頻度または便の硬さとの関連性という特徴のうち、少なくとも2つ以上がある場合に診断されます。血液検査、大腸内視鏡検査、病理検査などでは明らかな異常が見られないことから、病気の原因は、はっきりと分かっていません。患者さんの大腸そのものに異常がないことから、生理的要因(大腸機能やホルモンバランスなど)と心理的要因(ストレスや情緒など)が絡み合って生じていると考えられています。
 過敏性腸症候群は、決して珍しい病気ではありません。患者さんの多くは、中学生頃から30歳ごろまでの間に発症して、お腹の症状を不規則に繰り返します。学生時代に、あなたの周りにも、テストになると下痢や便秘になってしまうお友達が1人は居たのではないでしょうか。そのお友達も、程度の差こそあれ過敏性腸症候群です。一般的に、男性では、突然、お腹が痛くなり下痢になってしまう「下痢型」(→Q4)が多く、女性では、お腹の不快感が続いて、頻繁にガスが出るのに便秘になってしまう「便秘型」(→Q4)が多いとされています。

 ツノクリでは、過敏性腸症候群と診断しても、必ずしもお薬による治療が必要とは考えていません。ただし、繰り返すお腹の症状や便通不良などによって、患者さんの生活の満足度が低下しているようであれば、お薬を使っても良いのではないかと考えています。ツノクリでは、まず、患者さんとお話しながら心理的要因が大きく関わっていないかを確認して、その人の症状に合わせて、大腸の機能を整えるお薬(→Q7)を試してみることをお勧めしています。もちろん患者さんごとに効果のあるお薬が違いますので、いくつかのお薬を試してみるのも一つの方法です。ツノクリは、皆さんにとって大切なことは、お薬を使うかどうかではなく、元気で充実した生活を送ることだと思っています。

Q1.過敏性腸症候群はどのような病気ですか?

 検査で異常がないにも関わらず、腹痛に下痢や便秘などの症状を繰り返す病気です。
 過敏性腸症候群は、大腸内視鏡検査や腹部CT検査でなど異常がないにも関わらず、便秘や下痢、もしくは両方を繰り返す病気です。症状は数か月間続きます。過敏性腸症候群患者さんでは、健康な人と腸内細菌の種類や割合が異なり、大腸の粘膜に炎症が生じて透過性(様々な物質の通りやすさ)が亢進していることが分かっています。

Q2.過敏性腸症候群と鑑別するべき病気はどのような病気ですか?

 怖いのは大腸がんです。
 男性の11人に1人、女性の13人に1人が、大腸がんと診断されています。そして、わが国では年間50,000人ほどが大腸がんで亡くなっています。過敏性腸症候群と大腸がんを鑑別するにために最も有用な検査は大腸内視鏡検査です。ツノクリでは、過敏性腸症候群を疑われた全ての患者さんが、大腸内視鏡検査を受ける必要はないと考えていますが、50歳以上、大腸がんの既往、貧血、血便、体重減少(3kg以上)などがあれば大腸内視鏡検査を受けることをお勧めしています。 

Q3.過敏性腸症候群はどのように診断しますか?

 過敏性腸症候群の診断は、診断基準(RomaIV)に基づきます。
 過敏性腸症候群の診断基準を簡略化すると、過敏性腸症候群は、週に1回以上の腹痛が3か月以上続き、排便と便の形状について3項目中2項目以上(①便秘や下痢などに関係する ②排便の頻度に関係する ③便の形状に関係する)を満たす場合に診断されます。

Q4.過敏性腸症候群にはどのような種類がありますか?

 便の性状により4種類に分類されます。
 未治療の状態で、泥状の便が多い「下痢型」、硬い便が多い「便秘型」、両方がある「混合型」、それ以外の「分類不能型」の4種類があり、これらの便の性状は治療法を決定するために大切です。 

Q5.過敏性腸症候群になりやすい要因はありますか?

 はい、あります。
過敏性腸症候群は、感染性腸炎をきっかけに発症することが多く(通常の7~8倍)、なりやすい要因として、女性、若年、ストレスなどが知られています。 

Q6.食事で過敏性腸症候群の症状を軽くすることはできますか?

 はい、できます。

 過敏性腸症候群では、規則的な食事、十分な(カフェインを含まない)水分の摂取が重要です。食事の内容としては、脂質、カフェイン、香辛料を控えることが良いとされています。欧米では、過敏性腸症候群の症状を軽減するために、小腸で吸収されにくい食品である小麦、玉ねぎ、ひよこ豆、レンズ豆、リンゴ、トウモロコシ、牛乳、ヨーグルト、はちみつなどの摂取を控えることが推奨されています。一方で、食物繊維(特にオオバコ)の摂取は、腹部症状と便秘症状の改善に有効であることが分かっています。 

 

Q7.過敏性腸症候群治療にはどのようなお薬がありますか?

 過敏性腸症候群治療には複数のお薬があります。

  1.  高分子重合体(ポリカルボフィルカルシウム):便の形状を保ち、水分を含ませることにより、全ての型の過敏性腸症候群の腹部症状や排便頻度を改善させることが分かっています。過敏性腸症候群治療で最も使われるお薬です。
  2.  マレイン酸トリメブチン(商品名:セレキノン):消化管は、体がリラックスしている時に働きます。マレイン酸トリメブチンは、緊張する神経を抑え、リラックスする神経を強めることにより、腸の運動を改善します。特に、「下痢型」過敏性腸症候群に効果があると考えられています。
  3.  ラモセトロン(商品名:イリボー):腸の運動を亢進させるセロトニン(5‐HT3)と呼ばれる神経伝達物質を抑えて、腸の働きを適正化します。「下痢型」過敏性腸症候群において、腹痛などの腹部症状と、便意切迫、排便頻度、便形状を改善することが分かっています。お薬の量を増加させると、女性では便秘が生じることがあるため、男性と女性での最大投与量が異なります。
  4.  粘膜上皮機能変容薬(ルビプロストン(商品名:アミティーザ)、リナクロチド(商品名:リンゼス)):腸粘膜上皮細胞に作用して便秘を改善させます。そのため、「便秘型」過敏性腸症候群に有効です。「便秘型」過敏性腸症候群の患者さんで、一般的な下剤だけでは症状が十分改善しない場合に使います。
  5.  大建中湯:漢方薬は、欧米での臨床試験がほとんどなく、過敏性腸症候群で有効性が認められているお薬は限られています。なかでも、大建中湯は、「便秘型」過敏性腸症候群の腹部症状を改善することが示されており、他の薬で十分改善しない場合に使用することがあります。
  6.  抗アレルギー薬:「下痢型」過敏性腸症候群の患者さんの中には、食物アレルギーの患者さんが含まれていることがあり、抗アレルギー薬が有効であることが示されています。もちろん、抗アレルギー薬が無効の患者さんもいますが、「下痢型」過敏性腸症候群の患者さんに試してみる価値はあると考えています。ただ、残念ながら、2021年12月現在、わが国で過敏性腸症候群に抗アレルギー薬の適応はありません。

Q8.過敏性腸症候群で亡くなることはありますか?

 いまのところ良く分かっていません。
 過敏性腸症候群になると、健康な人と比べて、亡くなってしまう人が多いかは良く分かっていません。ただ、過敏性腸症候群患者さんの中には、強いストレスを抱えている患者さんがいるため、自殺率が高いことが分かっています。過敏性腸症候群治療も大切ですが、専門の先生に精神的な支援をしてもらうこともとても大切です。

第一版 2021年12月23日

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME