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頭痛について

はじめに

 ほとんどの人が、一生涯に一度は、頭痛を経験するとされています。頭痛は、大きく、一次性頭痛と二次性頭痛に分類されます。くも膜下出血や脳腫瘍など、他の原因や病気によって引き起こされる頭痛は、二次性頭痛(→Q3)と呼ばれ、一方、皆さんが経験する頭痛の多くは、はっきりとした原因や病気がない頭痛で、一次性頭痛と呼ばれます。二次性頭痛は、命に関わる病気と関連している場合があるため、とても重要ですが、一次性頭痛に悩まされている人たちが多いことから、ここでは主に、一次性頭痛について説明します。
 一次性頭痛には、主に、「片頭痛」と「緊張型頭痛」と「群発頭痛」があり、わが国での患者さんの割合は、片頭痛5~10%程度、緊張型頭痛20%程度、群発頭痛1%程度とされています。まずは、自分がどの頭痛かを見極めることが大切ですが、片頭痛と緊張型頭痛が混在している患者さんも多く、必ずしも下の表に当てはまらない患者さんもいます。そのため、頭痛の治療をしたいと思ったら、まずは、近隣のクリニックを受診することをお勧めします。ただし、「今まで経験したことが無い突然の激しい頭痛」の場合には、くも膜下出血(→Q4)が疑われますので、すぐに救急車を呼びましょう。

〇主な一次性頭痛の分類

  片頭痛 緊張型頭痛 群発頭痛
頭痛の部位 頭の片側 頭全体 片眼の奥
頭痛の型 ズキンズキンと痛む 締め付けられるように痛む えぐるように激しく痛む
頭痛の頻度 月1~週3回程度 ほとんど毎日 発作期間中は毎日
頭痛の時間 4~72時間 数時間~1日中 15分~3時間
日常生活の支障 大きい 小さい 激しい

 ツノクリでは、頭痛があるからといっても、必ずしもお薬による治療が必要とは考えていません。しかし、頭痛でクリニックを受診する患者さんのほとんどは、頭痛が原因で、満足した日常生活を送ることができていません。そのため、ツノクリでは、まず症状をしっかりと聞いたうえで、診断に沿った治療薬を提案します。もちろん患者さんごとに効果のあるお薬が違いますので、いくつかのお薬を試してみなければならない場合もあります。ツノクリは、皆さんにとって大切なことは、頭痛のお薬を使うかどうかではなく、可能な限り頭痛のない生活を送ることだと思っています。個人的には「沢井製薬」の「頭痛オンライン」が分かりやすいと思います。Webでのセルフチェックもありますので参考にしてみて下さい。

 目 次

Q1.頭痛はどのように分類されますか?
Q2.一次性頭痛にはどのような頭痛がありますか?
Q3.二次性頭痛にはどのような頭痛がありますか?
Q4.頭痛を生じる頭頚部の血管障害で、最も重要な病気は何ですか?
Q5.脳梗塞で生じる頭痛にはどのような症状がありますか?

 片頭痛について

Q6.片頭痛とはどんな頭痛ですか?
Q7.片頭痛はなぜ起こるのですか?
Q8.片頭痛の前兆にはどのようなものがありますか?
Q9.片頭痛発作はどのような因子によって引き起こされ、悪くなりますか?
Q10.片頭痛は将来どうなりますか?
Q11.慢性片頭痛とはどんな病気ですか?
Q12.片頭痛患者さんは脳梗塞になりやすいですか?
Q13.片頭痛の治療にはどのような種類がありますか?
Q14.片頭痛の急性期治療薬にはどのようなお薬がありますか?
Q15.片頭痛の急性期治療薬としてのアセトアミノフェンやNSAIDsの特徴は何ですか?
Q16.片頭痛の急性期治療薬としてのトリプタンの特徴は何ですか?
Q17.トリプタンを内服するタイミングはいつが良いですか?
Q18.トリプタンの種類によって効果の違いがありますか?
Q19.トリプタンの点鼻薬はどのような片頭痛患者さんに使われますか?
Q20.片頭痛急性期治療薬としてのラスミジタンの特徴は何ですか?
Q21.片頭痛急性期治療薬として制吐薬の特徴は何ですか?
Q22.片頭痛の予防薬はどのような患者さんに使われますか?
Q23.片頭痛予防薬にはどのようなお薬がありますか?
Q24.慢性片頭痛はどのように治療しますか?

 緊張型頭痛について

Q25.緊張型頭痛とはどんな頭痛ですか?
Q26.緊張型頭痛はなぜ起こるのですか?
Q27.緊張型頭痛はどのような因子によって引き起こされ、悪くなりますか?
Q28.緊張型頭痛の治療はどのような種類がありますか?
Q29.緊張型頭痛の急性期治療薬にはどのようなお薬がありますか?
Q30.緊張型頭痛の予防療法にはどのようなものがありますか?

 群発頭痛について

Q31.群発頭痛(三叉神経・自律神経性頭痛)とはどんな頭痛ですか?
Q32.群発頭痛はなぜ起こるのですか?
Q33.群発頭痛はどのような人が発症し、どのような因子によって引き起こされますか?
Q34.群発の急性期治療薬にはどのようなお薬がありますか?
Q35.群発頭痛の予防療法にはどのようなお薬がありますか?

 薬物使用過多頭痛について

Q36.薬物使用過多頭痛はどんな病気ですか?
Q37.薬物使用過多頭痛にはどのような治療法がありますか?

Q1.頭痛はどのように分類されますか?

 主に、一次性頭痛と二次性頭痛に分類されます。
 一次性頭痛とは、頭痛の原因になる病気がない頭痛です。一方、二次性頭痛とは、頭痛を引き起こす病気があるために生じる頭痛です。

Q2.一次性頭痛にはどのような頭痛がありますか?

 主に、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛があります。

Q3.二次性頭痛にはどのような頭痛がありますか?

 主に、頭頚部外傷による頭痛、頭頚部の血管障害と非血管障害による頭痛などがあります。
 一般的に、頭痛を持つ患者さんの20%前後が二次性頭痛と考えられています。二次性頭痛で最も多いのは、頭頚部外傷後(交通事故などを含む)や頭頚部の手術後に生じる頭痛です。頭頚部に受傷した際に、頭痛に加えて、①意識がはっきりしない、②吐き気や嘔吐、③受傷時に意識がない、もしくは受傷時の記憶がない、④60歳以上、の4つ全てを満たす場合は、ほとんど全ての患者さんにおいて、頭部CT検査で異常が見つかるとされています。このような場合には、躊躇なく救急車を呼んで、脳神経外科がある急性期病院に搬送してもらうことをお勧めします。

Q4.頭痛を生じる頭頚部の血管障害で、最も重要な病気は何ですか?

 特に死亡率の高い、非外傷性のくも膜下出血によって起きる頭痛との鑑別が重要です。
 非外傷性のくも膜下出血のほとんどは、脳動脈瘤と呼ばれる、頭の中を走る動脈の「こぶ」が突然破裂することによって起こります。くも膜下出血は、頭痛の原因として決して多くありません(頭痛で救急外来を受診する患者さんの約2%)。しかしながら、くも膜下出血の死亡率は25~50%と高く、急いで診断治療をする必要があります。典型的な症状に「今まで経験したことが無い突然の激しい頭痛」があります。このような頭痛があれば、すぐに画像診断(頭部CT検査)をする必要がありますので、躊躇なく救急車を呼びましょう。

Q5.脳梗塞で生じる頭痛にはどのような症状がありますか?

 脳梗塞の10~35%程度に頭痛が生じ、症状は緊張型頭痛に似ているとされています。
 脳梗塞による頭痛には特徴的な症状はありませんが、両側性で、吐き気や嘔吐などはみられず、光や音による刺激を受けないことが多いため、緊張型頭痛として診断される場合があります。ただし、脳梗塞による頭痛は、局所的な神経症状(痙攣、半身の運動麻痺や感覚麻痺など)とともに発症して、徐々に改善します。そのため、頭痛だけでなく、頭痛と一緒に生じた痙攣や麻痺などが無いかを確認することが重要です。一方で、神経症状のないラクナ梗塞では、頭痛はほとんどないとされています。

片頭痛について

Q6.片頭痛とはどんな頭痛ですか?

 片頭痛は、こめかみのあたりにズキンズキンとした痛みが、繰り返し起こる頭痛です。
 典型的な片頭痛は、頭の片側もしくは両側のこめかみのあたりにズキンズキンと拍動する痛みが繰り返し起こる病気です。片頭痛の特徴は、①ズキンズキンとする拍動性、②4~72時間の持続、③片側性、④吐き気、⑤日常生活に支障をきたす、からなり、このうち4つを満たせば片頭痛の可能性が高くなります。わが国で、年間1回以上の片頭痛を経験する人は、小学生では3.5%前後ですが、年齢と共に増加して30~50歳の女性では20%前後になります。その後は、徐々に減少してきます。

Q7.片頭痛はなぜ起こるのですか?

 片頭痛発作の原因は、正確には分かっていません。
 片頭痛発作の起きる正確な原因は分かっていませんが、発作には三叉神経と呼ばれる脳神経が関与していると考えられています。三叉神経とは、顔の皮膚の感覚(触れている感じ、痛み、熱さや冷たさなど)を脳に伝える末梢神経です。その名の通り三つの枝に分かれ、それぞれの神経が、①眼から上(おでこ)、②目と口の間(頬)、③口から下(下顎)の顔の感覚を脳に伝えています。これらの神経に様々な神経伝達物質が刺激を与えて、片頭痛発作を起こすと考えられています。その神経伝達物質の一つが、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)です。

Q8.片頭痛の前兆にはどのようなものがありますか?

 片頭痛の典型的な前兆には、視覚症状、感覚症状、言語症状の3つがあります。
 片頭痛の前兆は、片頭痛発作が起きる前60分以内に生じ、通常は5~60分間持続します。前兆の90%以上は視覚症状で、なかでも、閃輝暗点(せんきあんてん)が多いとされています。閃輝暗点とは、突然、視界にキラキラとしたジグザグの光の波ができ、次第に広がった後に暗くなって、見えなくなるという現象です。他にも、チクチク感などの感覚症状、言葉が出なくなってしまうなどの言語症状がみられることがあります。いずれの症状も、完全に元の状態に戻り、再び片頭痛発作の前兆として現れることがあります。そのため、これらの症状が60分以上たっても元に戻らない場合には、器質的な脳神経障害が疑われるため、地域の中核病院へ受診することをお勧めします。

Q9.片頭痛発作はどのような因子によって引き起こされ、悪くなりますか?

 片頭痛発作の誘発・増悪因子として最も一般的なのは、精神的なストレスです。
  片頭痛発作の誘発・増悪因子には、精神的なストレス(もしくはストレスの消失)、疲労、睡眠不足(過多)、生理周期、天候、寒暖差、匂い、音、光、運動、空腹、アルコールなどがあります。主な因子として、ストレス(80%)、生理周期(65%)、空腹(60%)、天候(50%)不眠(50%)があります。甲状腺機能異常(特に甲状腺機能低下症)の患者さんでは、片頭痛を起こしやすいとの報告があります。

Q10.片頭痛は将来どうなりますか?

 片頭痛は、男女ともに30歳台をピークに年齢と共に減少します。
 片頭痛の頻度は、男性では30歳台で10%前後ですが、60歳以降には2.1%になり、女性では30歳台で40%前後ですが、60歳以降には6.5%になります。一方で、片頭痛患者さんの一部に、緊張型頭痛と同じような症状が出現し、頭痛発作の頻度が増加し、慢性片頭痛に移行する患者さんがいます。慢性片頭痛に移行しやすい人には、女性、遺伝的な素因、肥満、精神疾患、カフェイン摂取などの特徴があります。今のところ、慢性片頭痛の患者さんが、肥満を改善したり、カフェイン摂取量を減らしてたりしても、頭痛の症状が改善するかは分かっていません。

Q11.慢性片頭痛とはどんな病気ですか?

 慢性片頭痛は、片頭痛または緊張型頭痛を、月に15日以上、3か月間以上にわたって繰り返す病気です。
 慢性片頭痛は、月に15日以上の頻度で3か月間を越えて起こり、少なくとも月に8日以上は片頭痛の症状を持つ患者さんを指します。慢性片頭痛の患者さんの多くは、反復性片頭痛が進行し、頭痛発作は、必ずしも片頭痛ではなく、連日、緊張型頭痛のような特徴を持つようになります。慢性片頭痛をもつ患者さんは1~2%とされ、毎年、反復性片頭痛患者さんの2.5%が慢性片頭痛へ進行するとされています。

Q12.片頭痛患者さんは脳梗塞になりやすいですか?

 若年女性の前兆のある片頭痛でのみ、脳梗塞が増えることが分かっています。
 前兆のある片頭痛をもつ45歳未満の女性でのみ、脳梗塞が約2倍に増えることが分かっています。ただし、そもそも45歳未満の女性が脳梗塞をきたすことはほとんどいないため、過度に心配する必要はありません。一方で、喫煙や経口避妊薬は脳梗塞の危険を高めることが分かっています。45歳未満の女性で、前兆のある片頭痛を持つ患者さんでは、頑張って禁煙し、エストロゲンを含有する経口避妊薬の使用は控えましょう。

Q13.片頭痛の治療にはどのような種類がありますか?

 主に、急性期治療薬と予防薬があります。

Q14. 片頭痛の急性期治療薬にはどのようなお薬がありますか?

 主に、①アセトアミノフェン(→Q15)②非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)(→Q15)③トリプタン(→Q16)④エルゴタミン(→Q17)⑤セロトニン受容体作動薬(ジタン系)(→Q20)、⑥制吐薬があります。
 急性期治療の目的は、片頭痛発作を速やかに消失させ、患者さんを日常生活に戻してあげることです。もちろん、お薬を使うにあたり、副作用が少ないことや値段が安いことも大切です。最も気になるのは、急性期治療薬の効果ですが、世界的には治療薬を飲んで2時間後の片頭痛症状の改善によって判断します。欧米の片頭痛患者さんを対象とした報告では、好ましい急性期治療薬として、52%がトリプタン、21%が非トリプタン(多くがNSAIDs)、18%がトリプタンと非トリプタンの併用をあげています。
 2022年6月からセロトニン受容体作動薬(ジタン系)(→Q20)のラスミタジン(レイボー)が発売され、新たな急性期治療薬として期待されています。ただ、新しい作用を持つお薬のため、2022年6月現在、100mg/錠で570円(3割負担で170円前後)と高額です。

〇片頭痛急性期治療薬の分類

  信頼性 副作用 効果 値段
アセトアミノフェン 高い 少ない 強い 安い
NSAIDs 低い~高い 少ない 強い 安い
トリプタン 高い 少ない とても強い 高い
エルゴタミン 中間 多い とても強い 安い
ラスミタジン 中間 少ない 強い 高い
制吐薬 低い~高い 少ない~多い 強い~とても強い 安い

 それらを踏まえると、片頭痛急性期治療薬は、安全性が高く安価なアセトアミノフェンやNSAIDsから始め、効果がない場合に高価なトリプタンに変更する方法が一般的です。それでも効果が不十分な場合には、NSAIDs(もしくはアセトアミノフェン)とトリプタンを併用します。トリプタンが無効もしくは副作用が強ければ、より高価ですがラスミジタンを使用してみると良いと考えます。片頭痛急性期に吐き気や嘔吐を伴うようであれば、制吐薬も同時に使用します。制吐薬としては、メトクロプラミド5mgが最も信頼できますが、パーキンソン病のような症状が出現することがあり、高齢者には使いづらいお薬です。急性期治療薬が有効であっても、NSAIDsで15日/月以上、トリプタンで10日/月以上服用する月が、3か月以上続く場合には、薬剤使用過多頭痛(→Q36)をきたす可能性があります。そのため、片頭痛発作の頻度が高い患者さんでは、片頭痛の急性期治療だけでなく予防治療(→Q22)を行うことをお勧めします。
ツノクリでは、片頭痛急性期治療には、NSAIDsを利用したことが無ければ、まずアセトアミノフェンを試してもらいます。アセトアミノフェンで効果がみられなければ、(NSAIDsと)トリプタンを処方する場合が多いです。ツノクリでは、どのようなお薬を使うかどうかではなく、片頭痛発作が副作用なく、速やかに治まり、日常生活に戻れることが一番大切だと思っています。

Q15.片頭痛の急性期治療薬としてのアセトアミノフェンやNSAIDsの特徴は何ですか?

 アセトアミノフェンやNSAIDsの単独投与は、安全性が高く、かつ安価なため、急性期治療薬として最も利用されています。
 効果の確実性では、高い確信がある(アセトアミノフェン300mg~、イブプロフェン200mg、ジクロフェナク25mg~、アスピリン500mg~)、確信は限定的である(ロキソプロフェン60mg~、セレコキシブ100mg~)に分けられます。効果の確実性は、信頼できる臨床試験で有効性が示されているかどうかによって決まっているため、急性期治療薬としてのお薬の有効性や治療効果を意味してはいません。特に、ロキソプロフェンは、本邦の片頭痛患者さんの急性期治療薬として広く使用され、実臨床での有効性は分かっています。しかし、その一方で、ロキソプロフェンは、欧米での使用頻度が少なく、信頼できる臨床試験を行っていないため、確実性は「限定的」とされています。
 2022年6月現在、市販のイブシリーズには2錠にイブプロフェン300~400mgが、セデスシリーズには2錠にアセトアミノフェン160~250mg(セデスキュアにはイブプロフェン150mg/2錠)が、バファリンシリーズにはイブプロフェン、アセトアミノフェン、アスピリン(アセチルサリチル酸)などが、含まれています。市販の頭痛薬購入に迷った際には、種類と容量から、イブシリーズであれば確実性があると言えるでしょう。

Q16.片頭痛の急性期治療薬としてのトリプタンの特徴は何ですか?

 トリプタンは、片頭痛の急性期治療として、アセトアミノフェンやNSAIDsで十分な鎮痛効果がみられない場合に積極的に使用します。
 トリプタンは、NSAIDsと比べ、投与2時間後の頭痛の消失効果と、24時間にわたって頭痛の再発抑制効果において、優れていることが分かっています。一方で、頭痛に伴う症状のなかで、吐き気を抑える効果では、NSAIDsのほうがわずかに優れ、副作用においてはNSAIDsよりトリプタンで多かったとされています。トリプタン特有の副作用として、胸部症状(のどや頸部の絞めつけ感)がありますが、この症状は、一時的で、狭心症などとは関連が無いことが分かっています。
 総合的にみると、トリプタンは、NSAIDsと比べ、副作用や頭痛に伴う症状などでは効果は弱いものの、最も大切な、頭痛を消失させる効果や頭痛の再発を抑える効果に優れています。そのため、NSAIDsで十分効果が得られない片頭痛患者さんには積極的に利用することが望ましいと考えられます。ただし、片頭痛患者さんの10~30%では、トリプタンによる効果が全くみられないとの報告もあります。その場合には、トリプタンを内服するタイミング(→Q17)を調整すると改善する場合があります。

Q17.トリプタンを内服するタイミングはいつが良いですか?

 トリプタンは、片頭痛発作が始まったら、すぐに内服することをお勧めします。
 片頭痛発作時のトリプタン内服のタイミングは、発作開始後早期の使用が効果的であることが、過去の複数の臨床試験から明らかになっています。頭痛の程度に関わらず、発作開始から1時間以内にトリプタンを飲むことをお勧めします。片頭痛の患者さんの中には、お薬が減ってしまう、お薬を飲みたくない、お薬の副作用が心配、お薬の値段が高いなどの理由で内服を躊躇する場合があります。しかし、頭痛が始まったらすぐにお薬を飲むことにより、生活の満足度が高くなることが分かっています。一方で、予兆や前兆のみでトリプタンを内服することが、片頭痛発作を軽減するかどうかは分かっていません。そのため、片頭痛発作を確信できるような予兆や前兆が現れない限りは、予兆や前兆が生じた際にトリプタンを内服することはお勧めしません。
 ツノクリでは、皆さんにとって大切なのは、お薬を飲むかどうかではなく、生活の満足度を保つことだと考えています。そのため、ツノクリでは、トリプタンを内服することで、片頭痛発作が早く確実に良くなるのであれば、発作開始からできるだけ早くお薬を飲むことをお勧めしています。

Q18.トリプタンの種類によって効果の違いがありますか?

 トリプタンの種類による効果の違いは明らかではありませんが、患者さんそれぞれに合う合わないがあるようです。
 個々のトリプタンの種類による違いを表に示しましたが、トリプタン同士の効果を比較した臨床試験が無いため、どの薬が優れているかを示すことはできません。さらに、欧米と日本では容量の違いもあるため、欧米での結果が、そのまま日本人に当てはまるとは限りません。例えば、欧米で優れた有効性を持つエレトリプタンは、40mgもしくは80mgとして使用され、本邦の容量(20mg)で同様の効果があるとは限りません。もちろん、1度に最大40mgを内服すれば、その有効性は20mgより高くなると考えられます。尚、スマトリプタンには副作用(全身倦怠感、脱力感、吐き気、嘔吐、眠気など)が多いとされますが、錠剤以外に点鼻薬と注射薬があり、いずれも効果発現が早く、効果が強いなどの優れた特徴もあります。

〇トリプタンの種類と特徴

一般名(先発品名称) 後発品価格容 量 最高血中濃度到達時間 効 果 再発率 副作用
スマトリプタン (イミグラン) ~200円 50mg 1.8時間 弱い 2錠内服可 - 多い
ゾルミトリプタン (ゾーミッグ) ~200円 2.5mg 3.0時間 2錠内服可 - 少ない
エレトリプタン (レルパックス) 約180円 20mg 1.0時間 2錠内服可 少ない -
リザトリプタン (マクサルト) ~200円 10mg 1.0時間 強い 少ない 少ない
ナラトリプタン (アマージ) 約230円 2.5mg 2.7時間 強い - -


 いずれのトリプタンも、片頭痛急性期治療薬としての効果は示されています。欧米での報告では、これらのお薬を組み合わせれば、片頭痛患者さんの90%が改善するとされています。片頭痛患者さんは、個々のトリプタンの効果に違いを感じるため、一般的な優劣よりも、自分に合うお薬を見つけることが大切です。
 ツノクリでは、片頭痛急性期治療薬としてNSAIDsが無効、もしくは効果が弱い場合には、トリプタンを使ってみることをお勧めします。トリプタンの種類にこだわりがなければ、効果発現時間、有効性、再発予防効果、そして副作用の少なさから、まずはリザトリプタンを試してみることをお勧めしています。リザトリプタンが合わないようであれば、エレトリプタンを試し、効果が十分でなければ2錠内服してみても良いでしょう。ただし、トリプタンもNSIDAsと同じく、1か月に10日以上服用する月が3か月以上続く場合には、薬剤使用過多頭痛(→Q36)を引き起こす可能性があります。頻回に内服するようであれば、予防治療(→Q22)をお勧めします。

Q19.トリプタンの点鼻薬はどのような片頭痛患者さんに使われますか?

 発売されている点鼻薬は、スマトリプタン点鼻薬のみで、片頭痛重症発作の患者さんに使用されます。
 スマトリプタンの点鼻薬は、効果発現が早く、効果が強いことが分かっています。そのため、片頭痛重症発作の患者さんに適用があります。そのほかにも、群発頭痛(→Q31)では、突然、激しい頭痛が15から180分間続き、激しい嘔吐などを伴うことがあります。そのため、群発頭痛急性期治療薬としては、効果の発現が早く(効果が長続きする必要はありません)、内服する必要のない点鼻薬は理想的です。ただし、2022年7月現在で、先発品のイミグラン点鼻薬のみがあり1個630円と高価です。

Q20.片頭痛急性期治療薬としてのラスミジタンの特徴は何ですか?

 ラスミジタンは、トリプタンと似た作用を持ちますが、より副作用の少ないお薬です。
 ラスミジタンは、セロトニン受容体に結合して、脳内と末梢神経での痛みの伝達を抑えることにより、片頭痛急性期発作を抑えます。トリプタンもセロトニン受容体に結合して片頭痛急性期発作を抑えますが、ラスミジタンは、特定のセロトニン受容体に作用するため血管への副作用が少ないと考えられています。現時点ではラスミジタンは、トリプタンの副作用を少なくしたものと考えられています。
 ラスミジタンは、新しいお薬のため、まだ効果や副作用についての情報が広く集まってはいません。日本の試験では、片頭痛急性期にラスミジタン100mgを服用することにより、2時間後に32.4%の人の頭痛が消失し、80.2%の人の頭痛が改善しました。一方、ラスミジタンを服用しなかった人での、消失と改善の割合は、それぞれ16.6%と55.0%でした。

Q21.片頭痛急性期治療薬として制吐薬の特徴は何ですか?

 制吐薬は、片頭痛に伴って生じる吐き気や嘔吐に効果があります。

 制吐薬は、片頭痛急性期発作に生じる吐き気や嘔吐に効果があります。なかでもメトクロプラミドは、制吐作用だけでなく、NSAIDsやトリプタンと併用すると穏やかな片頭痛への鎮痛作用を持つとされています。これらの報告から、片頭痛急性期治療薬としての制吐薬は、あくまでNSAIDsやトリプタンの補助的な役割と考えて良いと思います。

Q22.片頭痛の予防薬はどのような患者さんに使われますか?

 片頭痛発作が月に2回以上、あるいは生活に支障をきたす頭痛発作が月に3日以上ある患者さんに試してみることがあります。
 片頭痛予防治療は、片頭痛発作頻度の減少や重症度の軽減、急性期治療薬の有効性の向上、そして急性期治療薬の使用頻度の減少のために用いられます。特に、 NSAIDsで15日/月以上、トリプタンで10日/月以上服用する月が、3か月以上続く場合には、薬剤使用過多頭痛(→Q36)を引き起こす可能性があります。このような患者さんには、片頭痛の急性期治療だけでなく予防治療を行うことをお勧めしています。

Q23.片頭痛予防薬にはどのようなお薬がありますか?

 主に、①抗CGRP抗体/抗CGRP受容体モノクローナル抗体注射薬、②抗てんかん薬、③抗うつ薬、④β遮断薬、⑤カルシウム拮抗薬、⑥漢方薬などがあります。
① 抗CGRP抗体/抗CGRP受容体モノクローナル抗体注射薬
 抗CGRP抗体注射薬であるガルカネズマブとフレマネズマブと、抗CGRP受容体モノクローナル抗体注射薬であるエレヌマブは、片頭痛で重要な役割を果たしていると考えられているカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が、片頭痛の作用を生じるための受容体との結合を邪魔(阻害)します。これらの注射薬は、本邦では2021年から順次発売され、従来の片頭痛治療薬では効果が不十分な患者さんに使うことができるようになりました。有効性や安全性も調べられていますが、新しいお薬のため、長期にわたり使用した場合の副作用などが分かっていない点には注意が必要です。これらの注射を、月もしくは4週間に1回程度の頻度で継続する必要があります。そして、1本の値段が45,000円程度(3割負担の自己負担では15,000円程度)と、とても高額です。

② 抗てんかん薬(バルプロ酸)
 抗てんかん薬であるバルプロ酸は、片頭痛発作の頻度を50%以上減少させるとされています。さらに、頭痛発作の程度を軽減し、持続時間を短縮させるとの報告もあります。片頭痛予防には、400~600mg/日が適量とされ、望ましい血中濃度は21~50ug/mLとされています。一方で、抗てんかん薬は、妊婦さんに投与すると、胎児に悪影響(奇形や知能低下)を及ぼす可能性があることから、妊娠可能な女性が内服する場合には注意が必要です。

③ 抗うつ薬(アミトリプチリン)
 抗うつ薬であるアミトリプチリンは、従来から片頭痛予防薬として利用され、経験上での有効性は明らかですが、片頭痛患者さんへの効果を検討した報告は多くありません。抗うつ薬ですが、抑うつの症状がみられなくても、片頭痛に効果があることが分かっています。副作用として、のどの渇き、便秘、排尿障害、眠気などがみられることがあるため、少量から増量していくことが望ましいとされています。

④ β遮断薬(プロプラノロール)
 降圧薬であるプロプラノロールは、従来から片頭痛予防薬として利用され、経験上での有効性は明らかです。安全性も高く、片頭痛の予防薬としては第一選択の1つです。ただし、片頭痛急性期治療薬であるリザトリプタンの血中濃度を上昇させるため、リザトリプタンと併用できません。

⑤ Ca拮抗薬(ロメリジン)
 Ca拮抗薬は、広く降圧薬として利用されていますが、なかでもロメリジンは片頭痛予防薬に特化したお薬です。わが国で開発され、海外での使用実績が無いため、実施された臨床試験は多くありません。しかし、その有効性と安全性は高いことが示されており、片頭痛の予防薬としては第一選択の1つです。初期投与量は10mg/日で、最大20mg/日まで増量可能です。

⑥ 漢方薬
 従来から、漢方薬は片頭痛と緊張型頭痛に使用され、経験上での有効性が示されています。主なものに、呉茱萸湯(ごしゅゆとう)、桂枝人参湯(けいしにんじんとう)、釣藤散(ちょうとうさん)、葛根湯(かっこんとう)、五苓散(ごれいさん)があります。ただし、信頼できる臨床試験で効果が示されているのは、慢性頭痛を持つ患者さんに対する呉茱萸湯の効果のみです。特に、体力が低下して、手足が冷えるような、心窩部に圧痛があるような人に効果があるとされています。

Q24.慢性片頭痛はどのように治療しますか?

 片頭痛を主とした頭痛が、月に15日以上の頻度で3か月を超えて起こるものを慢性片頭痛と呼びます。
 慢性片頭痛は、頭痛が月に15日以上の頻度で3か月を超えて起こり、少なくとも月に8日以上の頭痛が片頭痛である場合を指します。日本人の1.4~2.2%が、慢性片頭痛をわずらっているとされています。本邦で慢性片頭痛の予防薬として使用でき、かつ効果があるとされている薬は、バルプロ酸、プロプラノロール、ロメレジン、および抗CGRP抗体/抗CGRP受容体モノクローナル抗体注射薬(→Q23)です。慢性片頭痛患者さんは、急性期治療薬を頻繁に使用する薬剤使用過多性頭痛(→Q36)へ移行しやすく、可能な限り急性期治療薬を週に2日以下に制限することが望ましいとされています。ただし、実際には、慢性片頭痛患者さんの急性期治療薬を制限することは、とても難しいことも分かっています。慢性片頭痛への移行を抑えるために、肥満を解消すること、カフェインの摂取を控えること、十分な睡眠をとることなどが大切とされています。また、慢性片頭痛を解消するためには体操が有効であることも知られています。
 ツノクリでは、慢性片頭痛患者さんで、急性期治療薬を使用する頻度の高い患者さんには、薬物使用過多性頭痛についてお話します。もちろん、頭痛専門外来への受診をご希望であれば、東京歯科大学市川総合病院などをご紹介します。

緊張型頭痛について

Q25.緊張型頭痛とはどんな頭痛ですか?

 緊張型頭痛は、両側性で圧迫感や締めつけ感として表現される頭痛です。
 緊張型頭痛は、一般的に、両側性で圧迫感または締めつけ感として表現され、頭痛の症状は強くなく、数十分から数日間持続する頭痛です。頭痛は、歩行や階段の昇り降りなどの日常生活の動作には影響を受けず、吐き気を伴うことはありません。ただし、全てがこの条件を満たすわけでなく、診断が難しい場合もあります。緊張型頭痛は、一次性頭痛の中で最も多く、緊張型頭痛を年間1回以上起こす日本人の割合は、5人に1人と言われています。片頭痛と同様に、緊張型頭痛が月に15日以上、3か月間以上にわたって繰り返す場合には、慢性緊張型頭痛と呼ばれます。
 緊張型頭痛は、片頭痛と異なり、通常通りの日常生活を送れなくなるわけではありません。そのため、初めて緊張型頭痛を起こした場合や、繰り返しもしくは数日間に渡り緊張型頭痛を起こした場合に受診する患者さんが多い印象です。

Q26.緊張型頭痛はなぜ起こるのですか?

 緊張型頭痛が起こる原因は分かっていません。
 緊張型頭痛が起こる原因は、いまだに不明ですが、頭の周りの筋肉(頭のてっぺんから肩にかけての筋肉)の圧痛の頻度が高いことが分かっています。また、緊張型頭痛が長く続くと、脳中で痛みを抑える働きが低下し、痛みが持続するのではないかと考えられています。

Q27.緊張型頭痛はどのような因子によって引き起こされ、悪くなりますか?

 緊張型頭痛は、ストレスや精神的緊張によって引き起こされ、悪くなることが分かっています。緊張型頭痛の85%で、心理的ストレス要因や、不安症やうつ障害などの精神疾患を合併しているとされています。

Q28.緊張型頭痛の治療はどのような種類がありますか?

 主に、急性期治療薬と予防薬があります。

Q29.緊張型頭痛の急性期治療薬にはどのようなお薬がありますか?

 主に、①アセトアミノフェン、②非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)、③筋弛緩薬などがあります。
 急性期治療では、アセトアミノフェン(カロナール)とNSAIDsのアスピリン、メフェナム酸(ポンタール)、ロキソプロフェン(ロキソニン)などが有効であることが分かっています。筋弛緩薬であるチザニジン(テルネリン)は、緊張型頭痛に効果があるかは分かっていませんが、本邦では経験的に利用される場合があります。特に、慢性緊張型頭痛では、ストレ、不安症、うつ病などの合併が多いことが知られ、アセトアミノフェンやNSAIDsなどの鎮痛剤が効かない場合もあります。

Q30.緊張型頭痛の予防療法にはどのようなものがありますか?

 片頭痛の予防療法では抗うつ薬が使われることがあります。
 慢性緊張型頭痛では、ストレス、不安症、うつ病などの合併が多いことが知られ、アセトアミノフェンやNSAIDsなどの鎮痛剤が無効であることが少なくありません。そのため、緊張型頭痛の予防薬として、抗うつ薬であるアミトリプチン(トリプタノール、5~75mg/日)を使うことがあります。他の抗うつ薬が利用されることはありますが、2022年5月時点では、アミトリプチンの効果が最も確実だと考えられています。アミトリプチンは、眠気や口の渇きなどの副作用の関係から、少量から使い始める必要があります。
 他の予防療法として、筋電図バイオフィードバック療法、頭痛体操、認知行動療法、鍼灸などがあります。なかでも、筋電図バイオフィードバック療法のみ、有効性が確認されています。

群発頭痛について

Q31.群発頭痛(三叉神経・自律神経性頭痛)とはどんな頭痛ですか?

 群発頭痛は、短時間かつ片側性で、目の充血、涙、鼻水などの頭部の自律神経症状を伴う激しい頭痛です。
 群発頭痛は、片側の眼の周りや側頭部などを中心とした激しい痛みが、15~180分間にわたり持続する頭痛です。頭痛と同じ側の顔面に限った症状(目の充血、涙、鼻づまりまたは鼻水、顔面の冷や汗など)を伴います。その名の通り、多くの患者さんで、半年から数年間に1度程度、1~2か月の期間に集中して、ほぼ毎日の就寝1~2時間後に激しい頭痛が起きます。 一方で、それ以外の期間では、頭痛はほとんど起きません。

Q32.群発頭痛はなぜ起こるのですか?

 群発頭痛が起こる原因は、はっきりとは分かっていません。
 群発頭痛が起こる原因ははっきり分かっていませんが、頸動脈、脳細胞、顔面の自律神経活動などの影響を受けていると考えられています。

Q33.群発頭痛はどのような人が発症し、どのような因子によって引き起こされますか?

 群発頭痛は、20~40歳の男性に多く、アルコール常飲者、ヘビースモーカーに多いとされています。群発頭痛を引き起こす因子には、アルコール摂取があります。

Q34.群発の急性期治療薬にはどのようなお薬がありますか?

 主に、①スマトリプタン(イミグラン)3mg皮下注射、②スマトリプタン(イミグラン)20mg点鼻薬、③高濃度酸素吸入があります。
 群発頭痛患者さんの多くは、就寝中に突然の激しい頭痛発作に襲われますが、5~180分間で治まってしまいます。そのため、お薬の効果が出てくるのに時間のかかる内服薬治療では十分でないため、注射薬や点鼻薬を利用します。

① スマトリプタン(イミグラン)3mg皮下注射(1日最大6mg)
 本邦で、唯一、確実な効果が示され、かつ保険診療で使うことのできる注射薬です。欧米での報告によれば、スマトリプタン6mg皮下注により、10分後に約半分、15分後に3/4の患者さんの頭痛が改善したとされています。本邦でも、スマトリプタン3mg皮下注により、30分後に3/4の患者さんの頭痛が改善したとの報告があり、3mgでも十分効果が見込めます。
使用に際しては、医療機関で自己注射の練習をしたうえで、自己注射用のセットである「イミグランキット皮下注3mg用注入器スターターセット」と「イミグランキット皮下注3mg」の処方箋を貰います。ただ、実際には、イミグラン皮下注射のキットを常備している医療機関も、イミグラン皮下注を常備している調剤薬局も少ないです。多くの場合、事前に医療機関へ受診して処方箋を提出する薬局を指定し、イミグラン皮下注を利用したいことを伝えておく必要があるでしょう。2022年7月現在、イミグラン皮下注3mgは、保険診療(3割負担)での自己負担額は700円程度/1本です。
② スマトリプタン(イミグラン)20mg点鼻薬
 スマトリプタン点鼻薬も効果があると考えられているお薬です。注射薬と異なり、複雑な準備は必要としませんので、皮下注射よりも現実的な選択肢ですが、わが国では保険適用がありません。2022年7月現在、スマトリプタン20mg点鼻薬は、自費負担で650円程度です。
③ 高濃度酸素吸入
 群発頭痛時に、90%以上の高濃度酸素(7L/分)を15分間にわたり吸入すると、発作が改善するとされています。欧米では、15分間の高濃度酸素吸入により群発頭痛発作の80-90%が改善するとの報告があります。それらの結果を踏まえ、2018年から、群発頭痛発作が1日に1回以上起きる患者さんに、酸素濃縮装置などを利用した高濃度酸素吸入を目的とした在宅酸素療法ができるようになりました。ただし、高濃度酸素は、引火などの危険性があり、自宅での使用は経験のある頭痛専門医を受診して、十分に説明を受けることが大切です。そのため、ツノクリでは、群発頭痛患者さんへの在宅酸素療法は行っていません

Q35.群発頭痛の予防療法にはどのようなお薬がありますか?

 確実な予防法は分かっていませんが、ベラパミルやエルゴタミンが有効とされています。
 群発頭痛の予防療法には有効な報告が少なく、本邦で利用可能な薬剤として、①ベラパミル、②エルゴタミンの2つがあります。

①  ベラパミル
欧米ではベラパミル360mg/日の予防効果が証明されていますが、本邦での最大投与量は240mg/日です。本来、ベラパミルは降圧薬や抗不整脈薬として使用されていますので、使用の際には、ふらつきや徐脈などの副作用に注意する必要があります。
②  エルゴタミン
 エルゴタミン1~2mgの就寝前の内服に予防効果があるとされていますが、しっかりと計画された臨床研究は行われていません。
 確実な予防効果が明らかになってはいないとは言え、群発頭痛は耐えがたいほどの痛みを伴う頭痛が深夜に襲ってきます。そのため、ツノクリでは、群発頭痛で困っている患者さんには、いずれのお薬も試してみる価値があると考えています。

薬物使用過多頭痛について

Q36.薬物使用過多頭痛はどんな病気ですか?

 1か月に15日以上頭痛があり、3か月を超えて頭痛の急性期治療薬を使用しており、薬物を使用している間に頭痛が増悪し、中止後2カ月で頭痛が消失もしくは以前の状態に戻る病気とされています。
 薬物使用過多頭痛は、本邦の頭痛外来での頻度は14.6%(うち女性83.2%)とされており、決して珍しい病気ではありません。一方、薬剤使用過多頭痛の患者さんの多くは、自分が薬剤使用過多頭痛であるとは知らない場合が多いことも分かっています。

Q37.薬物使用過多頭痛にはどのような治療法がありますか?

 薬物使用過多頭痛は予防可能と考えられていますが、治療はとても難しいです。
 薬物使用過多頭痛の治療の原則は、①原因薬剤の中止、②薬剤中止後の頭痛への対処、③予防薬投与です。慢性片頭痛の場合は、抗CGRP抗体関連製剤(→Q23)が有効であることが分かっています。
 原因薬剤の即時中止が、再発予防効果の観点からも望ましいとされています。薬剤の即時中止により、通常は、2~10日間の離脱症状(頭痛、悪心、嘔吐、睡眠障害など)があり、離脱後頭痛の際は、効果時間の長いナプロキセンやセレコキシブなどの有効性が認められていますが、使用日数には制限が必要です。具体的には、1週間2日間以内、もしくは1か月10日間以内とされています。慢性頭痛の予防薬として、バルプロ酸、プロプラノロール、アミトリプチン、ロメリジンを使用します。薬物使用過多頭痛の離脱には、頭痛ダイヤリーなどを用いた経過観察が望ましいとされています。薬物使用過多頭の離脱療法により、1~6か月間で70%の人に改善が見られますが、4~6年間で30%が再発します。特に1年以内の再発率が高いため、離脱後1年間は頭痛ダイヤリーを継続しましょう。
 ツノクリでは、薬物使用過多頭痛の患者さんの、急性期治療薬からの離脱を応援しています。しかし、頭痛の患者さんにとって、急性期治療薬を制限することは、とても難しいことも分かっています。離脱療法がうまくいかなくても、繰り返し挑戦することが大切です。様々な予防薬を試してみながら、急性期治療薬の減量に努めましょう。もちろん、頭痛専門外来への受診をご希望であれば、東京歯科大学市川総合病院などをご紹介します。

第1版 2022年07月01日

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