花粉症/アレルギー性鼻炎について
はじめに
体の免疫機能は、ヒトを感染症から守ったり、ヒトから有害な物質を追い出したりするために備わる重要な防御機構です。特に、空気の入り口である鼻は、日々、多くの異物が侵入してくる経路であることから、異物の侵入を防ぐ関所としての役割を担っています。具体的には、鼻の粘膜上で、侵入してくる異物(アレルゲン→Q2)を無害化するための抗体(IgE)を作り、侵入したアレルゲンを排除すると同時に、アレルゲンが再び侵入するのを防ごうとします。特に、アレルゲンが多い場合(時期)には、アレルゲンの侵入を防ぐために「鼻づまり」を引き起こし、アレルゲンを追い出すために「くしゃみ」や「鼻水」を引き起こします。これらの症状は、ヒトの防御機構として望ましい一方で、過剰になりすぎてしまうとアレルギー性鼻炎と呼ばれるようになります。
ヒトの体内にアレルゲンが侵入しても、すぐにアレルギー症状が出るわけではありません。まずは、アレルゲンに対する抗体が作られ、数年から数十年にわたりアレルゲンに暴露するとアレルギー症状が出現します。最近では、アレルギー体質(素因)のある人の増加やアレルゲン(花粉など)そのものの増加などにより、比較的短期間でアレルギー症状が出現するようになってきました。なかでも、最も多いとされるスギ花粉症の東京都での有病率(病気になっている人の割合)は、50%以上と推定されています。
ツノクリでは、通年性アレルギー(ハウスダストなど)や季節性アレルギー(花粉症)などで、症状がある方には、抗アレルギー薬の内服をお勧めしています。自分がアレルギーなのかを知りたい人、また、どのようなアレルゲンを持っているのか知りたい人には、血液検査による総IgE値、特異的IgE値、好酸球数を測定しています。ただ、アレルギー症状を和らげるためには、まず、アレルゲンを知り、できるだけ暴露しないことです。もちろん、薬を飲まないことが望ましいですが、ツノクリでは、アレルゲンに暴露しないように心がけているにも関わらず、アレルギー症状が出る人には、抗アレルギー薬を飲むことをお勧めしています。最近の抗アレルギー薬では、以前の抗アレルギー薬と比べて、副作用(特に眠気)が格段に少なくなっています。新たな作用を持つ複数の抗アレルギー薬も販売されています。お薬を飲んでみて、自分に合ったお薬を探してみることをお勧めします。かくいう私も、季節性アレルギー性鼻炎のため、毎年1月から5月頃までロラタジンを内服しています。
Q1.アレルギーとは何ですか?
体の免疫機能が、侵入してきた微生物や異物などに過剰に反応して、症状が出ることです。
微生物や異物などが体の中に入ると、それを排除するために、体の免疫機能が作用します。体の免疫機能は、微生物や異物(アレルゲン)に対する抗体を産生し、それらを排除するために働きます。しかし、体を守る免疫機能が、さまざまな原因によって異常をきたし、微生物や異物に対して、過剰に反応してしまうとアレルギー症状を引き起こします。アレルギーを引き起こすと、反応する部位により、鼻水、鼻づまり、くしゃみ、気管支喘息発作、発疹などを生じることがあります。
Q2.アレルゲンとは何ですか?
アレルゲンとは、アレルギー症状の原因となる抗原のことです。
体の免疫機能は、体の中に入った微生物や異物の一部(抗原)に対して、抗体を産生します。なかでも、体の免疫機能が過剰に反応してあるるぎー症状を起こす抗原のことを、アレルゲンと呼びます。
Q3.アレルギーはどのように分類されますか?
アレルギーは、Ⅰ型からⅣ型まで4種類に分類されます。
アレルギーは、体の中の免疫機能がどのように働くかによって、4種類に分類されています(5種類に分類する場合もあります)。なかでも、多くの皆さんが身近に感じる、アレルギー性鼻炎、花粉症、アトピー性皮膚炎、気管支喘息などは、I型アレルギーに分類されます。I型アレルギーは、抗体の一つであるIgE(アイ・ジー・ーイー)が、アレルゲンに過剰に反応することによって生じます。I型アレルギーでは、体の中にアレルゲンが入ってきた際に、15から30分程度でIgEによるアレルギー症状を引き起こすことから、「即時型」アレルギーとも呼ばれています。アレルギー性鼻炎は、鼻粘膜でのI型アレルギーによって生じます。
Q4.アレルギー性鼻炎にはどのような種類がありますか?
アレルギー性鼻炎のアレルゲンにより2種類に分類されます。
ダニやハウスダストやペットは、一年中屋内にいます。これらをアレルゲンとするアレルギー性鼻炎は、年間を通して鼻炎を生じますので通年性アレルギー性鼻炎と呼ばれます。一方で、花粉は、特定の季節にしか飛散しません。そのため、これらをアレルゲンとするアレルギー性鼻炎は、季節性アレルギー性鼻炎と呼ばれ、花粉をアレルゲンとするため「花粉症」とも呼ばれます。日本人では、春に飛散するスギやヒノキなどの花粉をアレルゲンとすることが多く、春に花粉症が起きると思いがちですが、実際には、どの季節でも花粉症は生じます。
Q5.通年性アレルギー性鼻炎の原因となる抗原(アレルゲン)には何がありますか?
ダニ、ハウスダスト、ガやゴキブリなどの昆虫、イヌやネコなどのペットの毛などがあります。
Q6.季節性アレルギー性鼻炎の原因となる抗原(アレルゲン)には何がありますか?
スギ、ヒノキ、カモガヤ、ブタクサ、イネ、シラカバなどの植物の花粉があります。
スギ花粉症は、北海道と沖縄を除く全国で広くみられる一方で、シラカバ花粉症は、北海道で多くみられます。つまり、花粉症は、アレルゲンとなる花粉のもととなる植物は、生息域によって異なります。季節性アレルギー性鼻炎が、複数の植物の花粉で生じる場合には、ややこしいですが、年間を通して季節性アレルギー性鼻炎をきたすこともあります。
Q7.通年性アレルギー性鼻炎と季節性アレルギー性鼻炎は同時に起きますか?
はい、起きることがあります。
複数のアレルゲンによって、通年性アレルギー性鼻炎と季節性アレルギー性鼻炎を合併することがあります。最近、これら2つのアレルギー性鼻炎を合併する患者さんが増えていることが分かっています。
Q8.アレルギー性鼻炎はどのような症状がありますか?
主な症状は、くしゃみ、鼻水、鼻づまりです。
アレルギー性鼻炎は、鼻粘膜でのI型アレルギー(→Q3)のため、主な症状はくしゃみ、(透明な)鼻水、鼻づまりです。ただし、アレルギー性鼻炎は、他のアレルギー性疾患である、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎などを合併することが多いことが知られています。そのため、他のアレルギー疾患の症状を含めれば、症状は多岐にわたります。
Q9.アレルギー性鼻炎はなぜ発症するのですか?
発症する要因として、遺伝や大気汚染などが考えられていますが、はっきりとは分かっていません。
発症する要因として、遺伝的要素などの体質や、大気汚染やスギ花粉量の増加などの環境要因が関わっているようですが、なぜ発症するのか、はっきり分かっていません。
Q10.アレルギー性鼻炎はどのような検査をするのですか?
簡便な方法として血液検査がありますが、最も有用な方法は鼻汁中好酸球検査です。
アレルギー性鼻炎の簡便な検査として、血液検査(総IgE値、特異的IgE値、好酸球数)が簡便ですが、鼻汁中の好酸球検査が強陽性であれば、ほぼ間違いなくアレルギー性鼻炎と診断できます。他には、特定の抗原を利用してアレルギー症状を誘発させる検査(プリックテスト、スクラッチテストなど)があります。
ツノクリでは、血液検査で、総IgE値や特異的IgE値、好酸球数などを測定することができますが、鼻汁中の好酸球検査や、特定の抗原を利用した検査はしていません。これらの検査をご希望の場合には、近隣の耳鼻咽喉科に問い合わせてみることをお勧めします。
Q11.アレルギー性鼻炎にはどのような治療法がありますか?
治療の基本はお薬を飲むことですが、他にもさまざまな治療法があります。
アレルギー性鼻炎の治療では、まずアレルゲンを避けることです。通年性アレルギー性鼻炎では、自宅を丁寧に掃除すること、シーツやまくらなどをダニ防止の製品に交換すること、ペットの飼育を中止することなどで症状が軽減します。一方、季節性アレルギー性鼻炎では、掃除はもちろん、マスクの着用やうがい、手洗いなどで症状が軽減します。一方、それでも症状が改善しない患者さんは、お薬を飲んだり(→Q12)、点鼻薬を使用したり(→Q13)、注射(→Q14)、アレルゲン免疫療法(→Q15)や手術(→Q16)をしたりすることもあります。
Q12.アレルギー性鼻炎のお薬にはどのような種類がありますか?
主なお薬は、抗アレルギー薬ですが、鼻づまりがあれば他のお薬を使うこともあります。
くしゃみと鼻水は、鼻粘膜でアレルゲンがヒスタミンという物質が増加させることによって起こります。そのため、増加したヒスタミンが作用しづらくなる抗ヒスタミン薬というお薬を使用します。主な抗アレルギー薬には、次のようなものがあります。ただし、これらの抗アレルギー薬を、直接、比べた臨床試験が無いため、有効性についての順序を付けることはできません。
〇主な抗アレルギー薬
|
mg/日 |
回数 |
自動車運転 |
フェキソフェナジン(アレグラ) |
120 |
2 |
記載なし |
ベポタスチン(タリオン) |
20 |
2 |
注意 |
オロパタジン(アレロック) |
10 |
2 |
禁止 |
エピナスチン(アレジオン) |
10~20 |
1 |
注意 |
ロラタジン(クラリチン) |
10 |
1 |
記載なし |
レボセチリジン(ザイザル) |
5 |
1 |
禁止 |
デスロラタジン(デザレックス) |
5 |
1 |
記載なし |
ビラスチン(ビラノア) |
20 |
1(空腹時) |
記載なし |
ルパタジン(ルパフィン) |
10~20 |
1 |
禁止 |
フェキソフェナジン+エフェドリン (ディレグラ) |
120+240 |
2 |
記載なし |
ツノクリでは、お薬の種類による効果の違いは、人それぞれだと考えています。そのため、患者さんから、一番良く効くお薬を出してくださいと言われると、私も迷ってしまいます。ただし、1日の内服回数や自動車を運転するかは、薬を選ぶ際の重要な要素となります。ツノクリでは、患者さんから、特にお薬に指定が無ければ、フェキソフェナジンやロラタジンを処方する場合が多いです。そして、新しいお薬に挑戦してみたい患者さんには、デスロラタジンやルパタジンを処方しています。
一方、鼻づまりは、鼻粘膜でアレルゲンがロイコトリエンという物質が増加させ、血管を収縮させて起こります。そのため、鼻づまりがひどい場合には、抗アレルギー薬に加え、抗ロイコトリエン薬や抗プロスタグランジン・トロンボキサン薬を処方します。具体的には、抗ロイコトリエン薬では、モンテルカスト5~10mgを1日1回、抗プロスタグランジン・トロンボキサン薬では、ラマトロバン75mgを1日2回処方します。
ツノクリでは、副作用の少なさから、モンテルカスト10mgを処方することが多いです。
Q13. 点鼻薬にはどのような種類がありますか?
主に、点鼻ステロイド薬を使用します。
点鼻薬には、点鼻ステロイド薬と点鼻血管収縮薬がありますが、有効性、持続性および安全性から、主に点鼻ステロイド薬を使うことをお勧めします。以下は、分かりやすいように先発品の名称で記載します。アラミスト、ナゾネックス、エリザスは、噴霧した鼻粘膜で作用して、全身には作用しにくい特徴を持っています。ステロイドには強力な抗アレルギー作用がありますが、全身投与により、さまざまな副作用をきたす恐れがあるため、局所のみで作用することはとても重要です。点鼻ステロイド薬の中で、アラミストとナゾネックスは液体状ですが、エリザスは粉末状のため、噴霧後にお薬が垂れてくる心配はありません。その一方で、使用する際の手間が多いことや、噴霧された実感を得にくいという欠点もあります。
点鼻血管収縮薬は、即効性があるため、効果を実感しやすいお薬ですが、1週間程度の使用により効果が減弱し、症状が悪化することが分かっています。そのため、どうしても必要な時以外には、使わないことをお勧めします。
Q14.アレルギー性鼻炎の生物学的製剤治療とは何ですか?
最重症のスギ花粉症の患者さんに対して、強力にIgEを抑える皮下注射です。
スギ花粉症によるアレルギー性鼻炎を治療中の患者さんで、お薬を飲んでも、一日中くしゃみ、鼻水、鼻づまりなどの症状が改善しない人に、2020年から生物学的製剤が使用できるようになりました。 2~5月の期間限定で抗IgE抗体であるオマリズマプを皮下注射し、強力にIgEを抑えることで、症状を軽減するお薬です。治療費として、月に数万円単位のお金がかかることもあり、治療を受けられる患者さんは、さまざまな条件により制限されています。詳細は、ノバルティスファーマのホームページ「初めてのゾレア」(https://hajimete-xolair.jp/)を参照してください。
ツノクリでは、アレルギー性鼻炎に対する生物学的製剤による治療は実施しておりませんので、耳鼻咽喉科もしくはアレルギー専門のクリニックなどにお問い合わせください。
Q15.アレルギー性鼻炎のアレルゲン免疫療法とは何ですか?
アレルギーを持つ患者さんをアレルゲンに暴露させ、アレルゲンに対する過剰な反応を抑える治療です。
アレルギーを持つ患者さんでも、わずかなアレルゲンに暴露しただけであれば、アレルギー症状を起こさない場合があります。このアレルゲンを、アレルギー症状を起こさない程度に、徐々に増量することによって、過剰に反応する体の免疫機能を再調整する方法です。この治療法を、アレルゲン免疫療法(減感作療法)と呼び、治療に用いるアレルゲンを標準化アレルゲンエキスと呼びます。
アレルゲン免疫療法は、お薬で症状を和らげるのでなく、体の免疫機能を再調整するため、特定のアレルギーを根治できる可能性があります。2022年2月現在、日本で治療が認められているのは、皮下注射を行う皮下免疫療法と、舌下投与を行う舌下免疫療法です。
皮下免疫療法は、多くのアレルゲンに対応しています。皮下注射は、最初に週1回から開始し、最終的には2~3か月に1回になりますが、それまでに3~5年以上はかかると考えておいたほうが良いでしょう。
舌下免疫療法は、スギ花粉とダニアレルギーのみに対応しています。最初の1週間は、毎日、少ない量のお薬を飲み、2週間目からは、毎日通常量のお薬を飲みます。症状が改善するまで、最低3年間程度の舌下が必要です。長期間にわたってお薬を飲むことで、8割程度の患者さんで改善し、1~2割の患者さんには根治が期待できます。いずれも、アレルゲンを投与しますので、特に、皮下注射でのアナフィラキシーショック、気管支喘息発作や発疹などの副作用が起きる可能性があります。
ツノクリでは、アレルゲン免疫療法を実施していません。アレルゲン免疫療法をご希望の患者さんは、近隣の耳鼻咽喉科やアレルギーを専門とするクリニックに問い合わせてみて下さい。通院頻度や通院期間を踏まえて、近隣のクリニックでの計画的な治療をお勧めします。
Q16.アレルギー性鼻炎の手術療法とは何ですか?
鼻づまりの症状が強い患者さんに行われる、アレルギー反応を抑える鼻の手術です。
アレルギー性鼻炎は、アレルゲンが鼻の中の粘膜に付着することによって起こります。そのため、鼻の中の下鼻甲介という部分の粘膜を、炭酸ガスレーザーなどで焼灼もしくは切除します。鼻の粘膜が新しく生まれ変わることや、免疫機能を持つ細胞の数が減ることにより、症状が緩和されます。ただし、再発することもあります。他にも、鼻水を出す神経を切断して、鼻水を出しづらくする方法もあります。
ツノクリでは、もちろん、アレルギー性鼻炎の手術療法を実施していません。手術は、多くの症例を経験している耳鼻咽喉科を持つ、地域の中核病院で実施することをお勧めします。
第一版 2022年2月10日