認知症について
はじめに
歳をとると記憶力や判断力の低下を感じ、認知症かもしれないと不安になることがあります。ただ、認知症とは、単なる年齢相応の記憶力や判断力の低下だけでなく、脳の病気によって普段の生活に支障をきたした状態を指します。つまり、多少の記憶力や判断力の低下があっても、いつもどおりの生活を円滑に送ることができていれば、余計な心配はいりません。一方、いつもどおりの生活を送れていても、記憶力や判断力を補うために多大な努力を必要とする状態は、認知症の前段階(軽度認知症)とされ、約半数が5年以内に認知症になるとされています。
また、認知症は身近な人が気付く場合もあります。若い人であれば、久しぶり会うご両親の記憶力や判断力の低下に戸惑うことがあるかもしれません。つじつまの合わない話をしたり、何度も同じ話をしたり、また、助言を拒んだり、すぐに怒ったり、常にソワソワしたりする姿を目の当たりにするかもしれません。これらの症状は、認知症の中核症状(記憶力と判断力の低下)と付随症状(行動・心理症状)と呼ばれ、周囲の人が分かっていても、本人は気付いていないことも多いです。ご両親の認知症となると、頭でわかっていても気持ちでは認めたくないものです。しかしながら、身内の認知症(や軽度認知症)で最も影響を受けるのは、ほかならぬあなたかも知れません。
このような認知症や軽度認知症は、改善したり根治したりすることはできませんが、お薬や予防活動によって進行を遅らせることはできます。そのため、認知症(や軽度認知症)は進行する前に発見して治療することが大切です。自分が、以前より物忘れが進み、大事な約束をすっぽかしてしまったり、すぐに忘れてしまったりすると感じたら、まずは、かかりつけ医に相談することをお勧めします。、また、自分の両親や身内の人が認知症かもしれないと感じたら、必ず、本人と相談して(できれば一緒に)かかりつけ医、専門医(脳神経内科医)に診察してもらうことをお勧めします。個人的には、「エーザイ株式会社 相談e-65.net」が素晴らしいと思います。「自分でできる認知症の気づきチェックリスト」「家族で確認!認知症チェックリスト」などもありますので、活用してみて下さい。
ツノクリでは、認知症もしくは軽度認知症のお薬を処方することはできます。しかし、認知症の適切な診断と治療のために、まずは専門医(脳神経内科医)による診察を受けることをお勧めしています。認知症が疑われても、検査で脳神経疾患や内分泌疾患などが見つかれば、治療によって治る可能性もあります(→Q3)。早く治療したい気持ちも分かりますが、治療の前に、画像診断や血液検査などにより適切な診断を受けることが大切です。さらに、治療方針を決めて、使用するお薬の効果や副作用を確認する際にも、診察する医師の知識と長年の経験がものを言います。そのため、ツノクリでは、認知症の診断と治療方針の決定については、経験豊富な専門医(脳神経内科医)をご紹介しています。
現在、認知症を改善したり根治したりすることはできませんが、改善や根治を目的に多くの治療法が研究されています。医学の発展に期待し、応援してくれる人たちの力を借りながら、認知症とうまくお付き合いしましょう。
目 次
Q1. 認知症とはどのような病気ですか?
Q2.認知症の患者さんはどのくらいいますか?
Q3.認知症にはどのような種類の病気がありますか?
アルツハイマー型認知症について
Q4.アルツハイマー型認知症の原因は何ですか?
Q5.アルツハイマー型認知症になりやすい人はいますか?
Q6.アルツハイマー型認知症にはどのような症状がありますか?
Q7.アルツハイマー型認知症はどのように診断しますか?
Q8.アルツハイマー型認知症の診断にはどのような検査がありますか?
Q9.アルツハイマー型認知症にはどのような治療法がありますか?
Q10.アルツハイマー型認知症をお薬以外で治療する方法はありますか?
Q11.アルツハイマー型認知症患者さんにはどのように接すれば良いですか?
Q12.新しいアルツハイマー型認知症のお薬(レカネマブ)はどのようなお薬ですか?
レビー小体型認知症について
Q13.レビー小体型認知症の原因は何ですか?
Q14.レビー小体型認知症になりやすい人はいますか?
Q15.レビー小体型認知症にはどのような症状がありますか?
Q16.レビー小体型認知症はどのように診断しますか?
Q17.レビー小体型認知症の診断にどのような検査がありますか?
Q18.レビー小体型認知症にはどのような治療法がありますか?
前側頭葉変性症について
Q19.前頭側頭葉変性症とはどのような病気ですか?
Q20.前頭側頭葉変性症にはどのような治療法がありますか?
血管性認知症について
Q21.血管性認知症とはどのような病気ですか?
Q22.血管性認知症になりやすい人はいますか?
Q23.血管性認知症にはどのような治療法がありますか?
Q1. 認知症とはどのような病気ですか?
認知症とは、記憶力や判断力の低下によって日常生活に支障をきたした状態です。
認知症は病気の名前ではなく、病気や障害などによって脳の機能が障害を受け、記憶力や判断力が低下し、日常生活を円滑に送ることができなくなってしまった状態を指します。
一般的に、健康な人でも歳をとれば記憶力や判断力が低下します。このような状態は、脳の機能が徐々に低下していく老化現象であり、病気や障害などによって脳の機能が障害を受ける認知症とは異なります。例えば、アルツハイマー型認知症による物忘れでは、体験したこと全体(いつ、どこで、だれと、なにを、どうした)を忘れてしまうため、ヒントがあっても全く思い出すことできません。本人は、体験したこと自体を忘れてしまっているため、その自覚もありません。さらに、老化現象と比べると進行が速く、体験したこと自体を次から次へと忘れてしまい、日常生活に支障をきたすようになります。
一方、通常の日常生活を送るために、以前よりも多くの努力を要とする状態のことを、軽度認知障害と呼び、5年以内に半分の人が認知症になるとされ、注意が必要です。
Q2. 認知症の患者さんはどのくらいいますか?
65歳以上の日本人の約5人に1人が認知症と言われています。
65歳以上の認知症の日本人は約600万人(2020年)と推計され、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると推計されています。(厚生労働省ホームページから)
Q3. 認知症にはどのような種類の病気がありますか?
認知症の原因となる病気は、主にアルツハイマー病、レビー小体症、前頭側頭葉変性症、血管性疾患の4つがあります。これらの病気は根治するのが難しいのが現状です。
一方、認知症を引き起こす治療可能な病気として、脳神経疾患(外傷性脳疾患や正常圧水頭症など)や内分泌疾患(甲状腺機能低下症やビタミンB群の欠乏症など)などがあります。これらの病気は適切な治療によって根治できる可能性があります。
アルツハイマー型認知症
Q4. アルツハイマー型認知症の原因は何ですか?
脳に特定の物質が蓄積することによって発症するとされています。
アルツハイマー型認知症は、アルツハイマー病の患者さんが合併する特徴的な認知症のことを指します。アルツハイマー病になる原因は完全には分かっていませんが、脳に特定の蛋白質(アミロイドβ蛋白、タウ蛋白)が溜まることにより、脳内の神経細胞や神経線維が障害を受け、認知症を発症するとされています。
Q5. アルツハイマー型認知症になりやすい人はいますか?
はい、遺伝や年齢に加え、環境因子などが複雑に関係しているようです。
アルツハイマー病は、歳をとればとるほど発症する危険性が高くなり、なかでも血管性疾患(心筋梗塞や脳梗塞)や生活習慣病(糖尿病や高血圧症)を持つ患者さんに多いとされています。ただ、これらの疾患がアルツハイマー病とどのように関連しているのか、よく分かっていません。
一方、アルツハイマー病の5%程度は、遺伝子変異によって発症し、若年性アルツハイマー病と呼ばれます。若年性アルツハイマー病患者さんのほとんどは、親からアルツハイマー病の遺伝子を受け継いで、若年(30~60歳)で発症します。
Q6. アルツハイマー型認知症にはどのような症状がありますか?
典型的には、もの忘れから始まり、徐々に動作の障害や意欲の減退などをきたします。
1. もの忘れ
アルツハイマー型認知症の初期症状として、最近体験した一連の出来事をすっかり忘れてしまいます。体験したこと全体(いつ、どこで、だれと、なにを、どうした)を思い出せないため、周囲の人に話を合わせる「取り繕い」や、周囲の人の記憶に頼ろうとする「振り返り」がみられることがあります。本人には体験した記憶そのものが無いので、嘘をつかれているのではないかと怒り出す人もいます。さらに進行してくると、言葉の意味や言葉そのものを忘れはじめるため、会話が減り、言葉が理解できず喋れなくなる「失語」と呼ばれる症状が現れることがあります。
2. 空間認識の障害
アルツハイマー型認知症の初期症状の一つとして、時計が示す時刻や立体図形などを描くことなどが難しくなってきます。
3. 遂行能力の低下
アルツハイマー型認知症が進行してくると、徐々に日常動作に支障をきたすようになってきます。複雑な作業の組み合わせである料理や庭仕事などを手際よく行えなくなり、徐々に、ハサミや箸の使い方、洋服の着脱もできなくなってしまいます。さらに症状が進めば、トイレ動作や立つことも難しくなり、最終的には寝たきりになってしまいます。
4. 精神の障害
初期症状として抑うつ症状(意欲減退など)がみられ、出来事に対する感情(悲しいや嬉しい)の起伏がなくなります。症状が進行してくると、すぐに怒って暴れたり、幻覚を見たりすることがあります。
アルツハイマー型認知症が進行した(重症)と判断する兆候として、日常生活を円滑に送るための最低限の行動ができなくなってしまったり(尿失禁や家事放棄)、じっとしてふさぎ込んでしまったり、逆に、落ち着きなく動き回ってしまったりすることが挙げられます。
Q7. アルツハイマー型認知症はどのように診断しますか?
遺伝性(若年性)アルツハイマー型認知症を除けば、
- 記憶・学習能力の低下および他の認知機能領域の 1 つ以上の低下
- 着実に進行する緩徐な認知機能の低下
- 他の脳神経疾患、精神疾患、および全身疾患などで認知機能の低下を説明できない
が挙げられます。
ツノクリでは、アルツハイマー型認知症の適切な診断と治療のために、まずは専門医(脳神経内科医)による診察を受けることをお勧めしています。
Q8. アルツハイマー型認知症の診断にはどのような検査がありますか?
アルツハイマー型認知症を診断するために質問票や脳の画像検査などを利用します。
まず、認知症の有無や程度を知る方法として質問票を利用します。なかでも、簡便な「長谷川式認知症スケール」は広く知られており、20/30点以下では「認知症の疑い」があるとされます。
さらに、アルツハイマー型認知症の診断検査として、
① CTもしくはMRI検査での(記憶に関わる)海馬の萎縮
② SPECTもしくはFDG-PETでの(運動や言語に関わる)側頭葉や頭頂葉での血流やブドウ糖消費の低下
③ アミロイドPET(※)での(精神や感情に関わる)前頭葉や帯状回後部のアミロイド蓄積
などがあります。これらの検査は、アルツハイマー型認知症を診断するのに役立ちますが、必ずしも必要な検査ではありません。
※2023年1月現在、アミロイドPET検査は保険診療で行うことはできません。
ツノクリでは「長谷川式認知症スケール」を行うことはできますが、画像診断を行うことはできません。より適切な診断や治療方針の決定のために、専門医(脳神経内科医)による診察を受けることをお勧めしています。
Q9. アルツハイマー型認知症にはどのような治療法がありますか?
アルツハイマー型認知症の進行を抑えるお薬を飲むもしくは貼ることです。また、近年、点滴のアミロイドβ蛋白への抗体治療薬(→Q12)が米国で承認されましたが、わが国では未承認です。
アルツハイマー型認知症の認知機能改善効果が知られているお薬として、コリンエステラーゼ阻害薬3種類とNMDA 受容体拮抗薬があります。
3種類のコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル,ガランタミン,リバスチグミン)は軽症から中等症のアルツハイマー型認知症に有効です。それぞれのお薬の作用は少しずつ異なりますが、認知症を改善する効果には3種類で大きな違いは無いようです。副作用も大きな違いはなく、飲み薬では吐き気、嘔吐、下痢などの消化器症状が主体です。まずは、いずれかのお薬を少量から開始して、効果と副作用を確認しながら、変更もしくは増量するのが一般的です。
NMDA 受容体拮抗薬にはメマンチンがあり、中等症から重症のアルツハイマー型認知症に有効です。一方で、軽症のアルツハイマー型認知症への効果は確認されておらず、進行したアルツハイマー型認知症が治療対象です。副作用には、頭痛、めまい、便秘などがあります。このお薬も、少量(5mg)から始め、1週間おきに5mgずつ、3週間で20mgへと増量します。
重症の場合には、ドネペジルとメマンチンを併用する場合があります。ドネペジル単独やメマンチン単独よりも効果があったとされている一方で、あまり効果が見られなかったという報告もあります。
いずれのお薬も効果がない場合や副作用が出現した場合には中止しますが、お薬の中止によって急速に認知症が進行する患者さんがいるため、お薬の中止にも注意を払う必要があります。
Q10. アルツハイマー型認知症をお薬以外で治療する方法はありますか?
いいえ、現時点で、お薬以外に有効な治療法は分かっていません。
アルツハイマー型認知症を改善するための方法として、認知トレーニングや認知リハビリテーションなどがありますが、有効性がみられる幾つかの報告に留まります。他にも、自尊心を向上させたり、音楽を聴かせたりなど、アルツハイマー型認知症改善のためのさまざまな取り組みがされていますが、はっきりとした効果は確認できていません。
Q11. アルツハイマー型認知症患者さんにはどのように接すれば良いですか?
アルツハイマー型認知症患者さんの意志を尊重して尊厳を保ってあげることが大切です。
アルツハイマー型認知症患者さんへの接し方が、アルツハイマー型認知症の病状にどのような影響を与えるかは分かっていません。そのため、病状を改善するための理想的な接し方は分かっていませんが、ひとりの人間として接してあげる心掛けが大切です。具体的には、①患者さんの病状を理解して過度に期待しないこと、②患者さんが混乱しないように簡単な指示や要求にとどめること、③患者さんに病状に向き合うように強いないこと、④患者さんの日常生活において不必要な変化を避けることなどが大切です。
これらの接し方は、口で言うのは簡単ですが、大切な人の認知症が進行するのを、そばで見守っているのは、とても辛く、そして受け入れがたいものです。どんなに忍耐強い人でも、がっかりしたり、イライラしたり、怒ったりすることもあります。それは、相手を大切に思っているからこそです。そういう時には、身も心も患者さんと少し距離を置き、誰かに話を聞いてもらうことが大切だと思います。
Q12. 新しいアルツハイマー型認知症のお薬(レカネマブ)はどのようなお薬ですか?
レカネマブは、アルツハイマー型認知症の原因物質の一つであるアミロイドβ蛋白の脳内沈着を抑えて、アルツハイマー型認知症の進行を抑える点滴による抗体療法です。
2022年11月に、早期アルツハイマー型認知症患者さんにレカネマブを投与する臨床試験の結果が公表されました。臨床試験では、18か月間にわたる2週間おきのレカネマブ投与が、脳PET検査でアミロイドβ蛋白脳内沈着が抑えられ、認知症の進行を27%抑制しました。一方で、点滴に伴う副作用、脳出血や脳浮腫などはレカネマブ投与患者で多かったことが報告されています(N Engl J Med. 2023; 388: 9-21.)。
レカネマブは、アルツハイマー型認知症の進行を遅らせるだけでなく、脳内に蓄積する原因物質そのものを抑えることができる治療薬として期待されています。一方で、安全性や経済性(米国内では350万円/年)などの課題もあり、2023年2月現在、わが国での保険診療は認められていません。
レビー(Lewy)小体型認知症
Q13. レビー小体型認知症の原因は何ですか?
脳細胞に「レビー小体」という円形物質(細胞内封入体)が多発することによって発症するとされています。
レビー小体型認知症は、(1912年ドイツ人病理学者レビーが発見した)レビー小体と呼ばれる蛋白質が、脳の神経細胞や自律神経領域にたまることにより、脳内の神経細胞や神経線維が障害を受けて発症するとされています。また、多くの患者で、アルツハイマー型認知症に類似した脳内病変(アミロイドβ蛋白、タウ蛋白の蓄積)がみられます。そのため、レビー小体型認知症は、アルツハイマー病変合併の程度により、アルツハイマー型、通常型、(アルツハイマー病変がほとんど無い)純粋型に分けられます。
Q14. レビー小体型認知症になりやすい人はいますか?
原因は良く分かっていませんが、高齢男性に多くみられます。
わが国のレビー小体型認知症患者さんは、60万人以上いるとされています。主に、65歳以上の高齢者に多く、アルツハイマー型認知症と比べ男性(男女比2:1)に多い特徴があります。
Q15. レビー小体型認知症にはどのような症状がありますか?
レビー小体型認知症に特徴的な症状として、以下の4つがあります。
1. 認知症症状の日内変動
他の認知症と比べ、認知症に日内変動がみられるため、症状がよい時とわるい時、それぞれの時に認知症の程度を判断する必要があります。
2. 幻覚・幻想
なかでも幻視は、レビー小体型認知症の8割でみられるとされています。幻視は、多くの場合で、ヒトや動物などの生き物が、夜間に繰り返し現れ、リアルに表現できるという特徴があります。
3. レム期睡眠行動異常
レム睡眠とは、眠くなり始めや目が覚める直前などにみられ、体は休んでいるのに脳が活発に活動している状態です。レビー小体型認知症では、体が休んでいるはずのレム期に、大声をあげたり、暴れたりすることがあります。これらの症状は、家族からは寝言や寝ぼけなどとして勘違いされることもあります。
4. パーキンソン症状
動作緩慢(動作が鈍くなる)、寡動(動けなくなる)、静止時振戦(四肢などを保とうとすると震える)、筋強剛(筋肉が動かしづらくなる)などが出現し、転倒しやすくなります。パーキンソン症状は自律神経障害を伴うため、立ちくらみや(ひどい)便秘などがみられます。
Q16. レビー小体型認知症はどのように診断しますか?
特徴的な認知症の症状と画像検査によって診断します。
レビー小体型認知症の診断には、以下に示した認知機能障害(→Q15)が1つ以上あることが必要です。
① 注意不足や判断能力低下などの認知機能の変動
② 繰り返し出現するリアルな幻視
③ レム期睡眠時の行動異常
④ パーキンソン症状(動作緩慢,寡動,静止時振戦,筋強剛)
レビー小体型認知症の初期には、(主要な認知症と異なり)はっきりとした記憶障害がみられない場合もあるため、注意不足や判断能力低下に注意する必要があります。また、レビー小体型認知症が疑われた場合の検査として、核医学検査(SPECT、MIBG 心筋シンチグラフィ)または PET検査などの画像検査やポリソムノグラフィなど(→Q17)があります。
Q17. レビー小体型認知症の診断にどのような検査がありますか?
レビー小体型認知症と診断するために脳の画像検査とポリソムノグラフィを利用します。
レビー小体型認知症の特徴的症状から、パーキンソン症状を伴う病気やアルツハイマー型認知症との鑑別が重要になります。123 I-MIBG心筋シンチグラフィは、パーキンソ症状を合併する他の神経変性疾患との鑑別に有用で、ドパミントランスポーターシンチグラフィはアルツハイマー病(型認知症)との鑑別に有用であることが知られています。また、睡眠時のポリソムノグラフィによる、筋緊張の低下を伴わないレム期睡眠は、レビー小体型認知症に特徴的とされ、診断に有用とされています。
Q18. レビー小体型認知症にはどのような治療法がありますか?
レビー小体型認知症そのものには有効な治療法はなく、それぞれの症状に応じて治療を行います。
レビー小体型認知症では、お薬により認知機能や精神症状の悪化がみられることがあるため、お薬以外の治療が主体となります。しかしながら、お薬以外の治療法(環境整備など)も確立した手法は無く、興奮するような状況(痛みや恐怖など)を作らないことなどが大切とされています。
お薬による治療は、レビー小体型認知症患者さんがもつアルツハイマー型認知症や周辺症状(行動・心理症状)に対して行われます。ただし、レビー小体型認知症ではお薬による副作用が出やすいため、お薬を使う際には細心の注意が必要です。
1. 注意不足や判断能力低下などの認知機能の変動
アルツハイマー型認知症の治療薬であるドネペジルやリバスチグミン(→Q9)にレビー小体型認知症の認知機能低下を抑える作用があるとされています。欧米では、リバスチグミンによる治療の信頼性が高いことが知られています。
2. 繰り返し出現するリアルな幻視
信頼できるお薬はありません。ただし、メラトニン受容体アゴニストであるラルメテオンが有効であったという報告があります。
3. レム期睡眠時の行動異常
信頼できるお薬はありません。ただし、クロナゼパムが有効であったという報告があります。
4. パーキンソン症状(動作緩慢,寡動,静止時振戦,筋強剛)
パーキンソン病に対するお薬による治療を行います。ただし、パーキンソン病治療薬で、レビー小体型認知症の幻視などの精神症状が悪化したり、ジスキネジアと呼ばれる自分では止めることのできない動きが出現したりすることがあります。
ツノクリでは、レビー小体型認知症の患者さんにお薬を処方することはできます。しかしながら、レビー小体型認知症を適切に診断して治療するには、十分な知識と経験を要するため、レビー小体型認知症が疑われる患者さんには、専門医(神経内科医)で診療してもらうことをお勧めしています。
前頭側頭葉変性症
Q19. 前頭側頭葉変性症とはどのような病気ですか?
前頭側頭葉変性症は、大脳の前頭葉や側頭葉の神経細胞が適切な働きをしなくなったり、壊れてしまったりすることにより、人格変化や行動障害、言語障害などがゆっくりと進行する神経変性疾患です。また、経過中にパーキンソン症状や様々な運動障害が出現することがあります。
本邦には12,000人程度の患者さんがいるとされ、アルツハイマー型認知症などと比べると少ないですが、若年性認知症(40~64歳)の割合が高く、人格変化や行動障害は社会活動に大きな負担を与えます。人格障害では、自制心を失うことにより、礼儀や規則の遵守がおろそかになり、分別の無い行動をとります。酔っぱらった人が、全裸になったり、大声で騒いだり、暴力をふるったりするのと似ています。
Q20. 前頭側頭葉変性症にはどのような治療法がありますか?
確立した治療法はなく、周りの人の病気への理解が大切になります。
様々な治療法が試されていますが、今のところ確立した治療法はありません。前頭葉側頭葉変性症では、家族などの周りの人が病気を理解することが大切です。そばにいる大切な人の人格が崩れていくため、それを受け入れることはとても難しいですが、病気であることを理解し、医療従事者などと協力して精神的・肉体的な負担を軽減しながら、うまくお付き合いしましょう。
血管性認知症
Q21. 血管性認知症とはどのような病気ですか?
脳の血管障害(梗塞や出血)が原因となって発症する認知症です。
認知機能の低下をきたし、MRIやCTなどの脳の画像検査で梗塞や出血の痕跡がみられ、他の認知症疾患に当てはまらないものを指します。ただし、血管障害とアルツハイマー病は共通の危険因子(年齢や生活習慣病)を持つことから、正確に区別することは難しいとされています。最近のわが国での報告では、血管性認知症とアルツハイマー型認知症を合併する人は、血管性認知症の5%前後とされています。
Q22. 血管性認知症になりやすい人はいますか?
血管性認知症は生活習慣と生活習慣病と関連しています。
血管性認知症になりやすい人として、高齢、運動不足、肥満、喫煙、脳卒中の既往、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、心房細動などがあります。若返ることはできませんから、血管性認知症を予防するために大切なのは、適度な運動すること、適度な体重を維持すること、そして禁煙することです。なかでも、禁煙(喫煙者の血管性認知症の危険率は、非喫煙者の1.78倍)と40歳以降の高血圧症治療は、血管性認知症予防に大切と考えられています。しかしながら、禁煙や血圧管理が、血管性認知症を防ぐことができるかは、はっきりと分かっていません。もちろん、血管性認知症と関連するこれらの生活習慣病は、さまざまな動脈硬化性疾患を予防するためにも継続的な治療が必要です。
Q23. 血管性認知症にはどのような治療法がありますか?
アルツハイマー型認知症のお薬が有効と考えられていますが、はっきりと分かっていません。
血管性認知症にも、アルツハイマー型認知症のお薬が有効との報告があります。しかしながら、血管性認知症はアルツハイマー型認知症と合併することが多いため、お薬の血管性認知症の有効性を判断することを難しくしています。そのため、現時点では、お薬が血管性認知症に有効かはっきりとしていません。
第1版 2023年1月29日